【PERSONAL FILE】FENCING PLAYER 西藤俊哉 “金メダルを取りたいのはあくまで自分自身”

西藤俊哉選手

来たる2021年東京オリンピックで金メダルを目指す日本代表の若者がいる。西藤俊哉選手23歳だ。中学生の頃からJOCエリートアカデミーにて日本最高峰の環境でフェンシングをプレイして来た彼に、十八年間のキャリアの挫折から、東京オリンピックに向けた気持ち、アスリートとして目指す姿を訊くことができた。

Toshiya Saito interview teaser

戦隊モノへの憧れから始めたフェンシング


 ──早速ですが、現在の活動内容を教えてください。

西藤 フェンシングの日本代表として活動しています。所属は長野クラブです。東京オリンピックの出場内定のために昨年の春から法政大学を休学中だったのですが、オリンピックが延期になってしまったので、長野県出身という縁もあり長野クラブに所属しながら、スポンサー様にサポートして頂いて活動しているという感じです。

 ──フェンシングを始めたきっかけは?

西藤 5歳からやっています。きっかけは、長野県の箕輪町という田舎出身なんですが、そこで元々フェンシングをやっていた父がフェンシングクラブをやっていて、そこでの練習を見に行った時に僕の中でちょうどハマってた仮面ライダーとかレンジャーとかの戦隊モノとイメージが被って。装備したりっていうのがかっこいいなって思って、フェンシングを始めました。

 ──はじめた当時はどんな感じでしたか?

西藤 始めたものの、僕結構フェンシング以外の運動ができないくらい運動音痴なんですよね。はじめた頃から、周りの子に比べて突出して才能があるわけでもなくて、結果もなかったです。ただ、お父さんがコーチと言うこともあって、小さい時から中学校や高校の練習に参加させてもらったりはしたので、練習する環境はすごく良かったです。


 JOCエリートアカデミー入学、日本代表への道


 ──その後はどうオリンピック選手への道を歩み始めたのでしょうか?

西藤 中2の春に、JOC(日本オリンピック委員会)がやっているJOC エリートアカデミーというスクールがあったんです。それは国の事業なんですが、オリンピック競技のトップの選手を全国から東京に呼んで、寮生活をしながら将来のメダリストを育成すると言うものです。当時目立った結果は出てなかったのですが、アカデミーの選抜合宿に合格することができて、中2で親元を離れて、JOCエリートアカデミーでの生活が始まりました。

 ──エリートアカデミーでの生活で良かったことは?

西藤 練習場所が日本代表と同じだったので、たまに一緒に練習したりできるのも良かったですね。それに、コーチと選手がぶつかってるところとかも肌感覚で感じれました。日常的に日本代表選手の葛藤みたいなものを感じることができたのは、大きかったですね。

 ──そこでの生活を経て、代表に進んで行った?

西藤 最初は海外遠征にも連れて行ってもらえなかったりしたんですが、中3の時にでたU17のワールドカップでいきなり優勝できたんです。そこから海外で勝てる自信もついて、U20に上がってからもW杯や世界選手権で大きな結果が出るようになってきました。そして2017年にシニアの日本代表としてデビューしました。そして同じ年に、初出場で世界選手権で銀メダルを獲得しました。

 ──日本代表になって変わったことはありましたか?

西藤 今まではノーマークだったところで一気に世界中から研究されるようになりました。そこから守りに入ってしまって、結果が出なくなってしまい、自信もなくなっていきました。その時は、フェンシングが怖くなって世界と戦うプレッシャーを感じましたね。


東京オリンピックへの挑戦


──東京オリンピックの代表へのステップは?

西藤 2019年の5月から2020年3月までのシーズンでオリンピックの選考を行います。日本で1位だったら出れるわけではなく、大陸から何人出れるだとか、世界ランキングで何位以内にいるとかの基準が大事になっていきます。その中で、個人の成績は一番良かったのですが、団体の成績が全く出なかったんです。そして団体のメンバーから外されてしまいました。日本代表としての最重要課題は男子フルーレの団体で金メダルを獲得することだったので、このままだとオリンピック出れないと焦っていました。

 ──その苦悩は、どう解決されていったんですか?

西藤 初めてアカデミーに入ったときにコーチしてくれていた恩師が誕生日にご飯に連れて行ってくれたんです。そこで色々話したときに、恩師が自分を怒ってくれたんです。「本当に自分のやるべきことを全部やっての結果なのか?」「自分の夢だったら自分でなんとかしろ」「周りのためにやってんじゃ無いだろ」って言われたときに、ハッとしました。世界で戦うことが当たり前になっていたから、初心を忘れていたんです。そこで意識が変わって、その後のアジア選手権で銅メダルを取ることができました。そして、ワールドカップでもベスト8を取ることができました。

 ──オリンピックを意識するきっかけは?

西藤 小学校三年生のときに京都の全国大会に出たときに、太田さん✳︎と試合ができるというエキシビションがあったんです。そこで試合ができることになったんです。普通子供相手なのでかなり手を抜くと思うんですが、太田さんはかなりしっかりやってくださっていて。対峙した時のスキルだとか、殺気みたいなものに圧倒されました。これが日本代表かと。試合をしたことで「俺はこの人より上に行きたい」と思って、オリンピックを意識するようになりました。

✳︎太田雄貴(北京オリンピック銀メダリスト、現日本フェンシング協会会長)

 ──オリンピックの開催は2021年に延期されてしまいましたが、どういうお気持ちですか?

西藤 最終選考会がまだだったので、そこでのワクワクがなくなってしまうことに関してはすごく残念に思います。でも、一年延期したということは自分がもっと強くなれる可能性が一年増えたとも捉えています。金メダルを取るということはとても難しいことです。でもフェンシングの面白いところは、過去に11回世界選手権とオリンピックがあって、11年間で毎年チャンピオンが違うんです。連覇している人がいない。だから、オリンピックに出さえすれば、ジャイアントキリングが当たり前のように起きます。だから一年伸びれば金メダルを取る可能性はもっと増えると信じてます。


“金メダル”という、ブレない夢


 ──大切にしている価値観はありますか?

西藤 自分がブレないことだと思っています。オリンピックで金を取りたいのは僕です。それはコーチでも親でもチームメイトでもなく僕自身です。僕が金を取りたくてフェンシングをして様々な選択をする中でその夢に共感してくれる方々にサポートしてもらって活動しています。だから、その人たちに恩返しをするというよりも、まずは、自分が取りたいから金を取る。そして金メダルを取ったときに、それに共感してくれた人がたくさん周りにいてくれたら嬉しいなと思います。もちろん、サポートしてくださる方には心のそこから感謝しています。でも、あくまで「金メダルを取るのは自分自身が取りたいから」という軸をブラさないようにしています。今まで、僕は天才と言われて来たこともないし、何かで結果を出せて来たわけでも無い。ただフェンシングに出会ってどっぷり浸かっていく中で自分の夢を持っていたので、その夢を叶えるまでは自分で選択していきたいです。

 ──フェンシングのどういうところが好きですか?

西藤 フェンシングの一番の魅力は駆け引きです。心技体が詰まっている競技だなと思います。ただ、これは僕だけじゃなくてアスリートの方はそうだと思うんですが、結局とにかくフェンシングが好きなんですよね。仕事という感覚でもなくて、ずっと夢を追っている感覚です。好きなことに関して夢を持って、それをサポートしてもらってる感覚はずっとあります。なので、好きだから続けられてますね。


アスリートとして生きる価値


 ──今後の展望は?

西藤 オリンピックで金メダルを取ることが人生の最大の目標です。最近、自粛期間で自分と向き合う中で自分が田舎町から世界を目指せているという人生は自分でも面白いなと思っています。アスリートをはじめとして色んな方と関わる中で、良い悪いとかではなく人それぞれの生き方って面白いと思うようになりました。僕自身も太田さんと出会ったことで色んな人や文化を知ることができました。なので、僕はそういう出会いを提供できるような存在になりたいです。

 ──具体的には何かありますか?

西藤 例えば、小中学生の大会は今なくなってしまったりしてますが、小中学生の大会を開いてあげたいなと思ってます。太田雄貴杯という、太田さんが主催している小学生の大会があるんですが、プロさながらの設備で行われるんです。太田雄貴杯のようにみんなの目標になるような小中学生の大会を僕も開けたらいいなと思ってます。
あとは、コロナ禍でアスリートのあり方が問われたと思っています。SNSでトレーニング動画を公開することもその一つです。だから、アスリートとして生きる価値というのを模索していきたいです。スポーツやアスリートの発展というのに寄与する活動をしたいと考えてます。その活動をする説得力のためにも、今まで以上にオリンピックで金メダルをとりたいという思いが強くなってます。

 ──西藤選手にとってカルチャーとは?

西藤 人生を豊かにする選択肢の一つだと思います。皆がそれぞれのカルチャーを選択することで、共通点を持つ人と出会える。そして、色んな価値観や人と触れ合える。自分の人間性も豊かになるし新しい目標や出会いへのきっかけを持っていると思います。どんな選択をしてもいいと思っています。それこそ、Kaijiと僕がダンスとフェンシングという違うカルチャーを選択した先で出会って✳︎、そして皆さんと出会って新しいつながりができたりとか。そういう風に、自分の人生を変えたり素敵なものにする選択肢の一つとしてカルチャーがあると思ってます。

✳︎今回の取材はKAIJIさんに西藤さんを紹介して頂いた。KAIJIさんの記事はこちらから

 ──ありがとうございました。

オリンピックで金メダルを取る。限られた人しか目指すことのできない目標を応援してくれる人がいる。しかし、金メダルという夢は他でも無い自分自身が成し遂げたいこと。あくまで自分自身の選択を信じアスリートとして高みを目指す彼は、必ずや2021年の東京オリンピックで活躍するだろう。今年一年の彼のオリンピックに向けた活動から目が離せない。

〈FIN.〉

取材 Taiki Tsujimoto, Nozomi Tanaka
構成 Charlie Ohno

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