【PERSONAL FILE】Rapper Tok10 言葉のアーティストが見据える未来

インタビュー ラッパー Tok10
Sound CloudやYouTubeでの総再生回数は200万回を超え、今注目の次世代ラッパーTok10 。慶應義塾大学に通いながら楽曲制作を行い、ラブソングからハードトラップまで幅広いジャンルの楽曲を唄いこなす。そんな彼に今回、ラッパーになったきっかけから、楽曲制作の流れ、日本におけるアート軽視の現状、ラップ・HIP HOPシーンに対する思い、カルチャーの捉え方までを聞いた。

※コロナウイルスの影響を考慮し、オンライン取材を実施。


直感


 ──現在はどのような活動をされているのですか?

Tok10 ラッパーとして、楽曲制作を中心に活動しています。またその他にも、「アートで食える」モデルケースを示すための活動もしています。

 ──ラッパーになったきっかけを教えてください。

Tok10 もともと小さい頃から音楽と映像が好きで、高校生の頃は映像を作っていました。でも飽きちゃって(笑)。何か新しいことしたいなと思った時に、テレビ朝日の『フリースタイルダンジョン』という番組でラップをみて、面白そうだなと思ったのがきっかけです。

 ──高校生の頃は映像を作っていたということですが、具体的にはどういったことをされていたんですか?

Tok10 高校生CMコンテストに応募して金賞を頂いたり、「トビタテ!留学JAPAN」の奨学金を頂いて、ハリウッドのNew York Film Academyで制作をしたりしました。色々と制作したのですが、性差別反対のショートムービーで『Freedom From Gender』という作品には思い入れが強いです。

TOK10が制作したショートムービー『Freedom From Gender』

 ──『フリースタイルダンジョン』がきっかけでラップを始めたということですが、それでは最初はラップバトルが中心だったんですか?

Tok10 はい、最初は音楽というよりもサイファーだったりバトルだったり、ラップを一つの遊びとして楽しんでいました。でもその時、ラッパーは音源を作っていないとダサいみたいな風潮があって、元々趣味でゲーム実況をしていて家にマイクがあったので、「じゃあやってみるか」って感じで楽曲制作も始めました。そしたら、どんどんはまっていきましたね。

 ──それでは楽曲制作などは全部独学でやられているんですか?

Tok10 そうですね、ラップって教科書みたいなものがあるわけではなくて、やっていく中で成長していくものなので独学ですね。曲に関しても、自分は直感的に作ります。自分の経験や周りで起こったことなどにインスパイアされて、浮かんできた言葉やメロディーを曲にしていくという感じです。あ、でも、3歳から15歳までピアノを習っていたので、そこで音感などは身についたのかなとは思いますね。

 ──なるほど。楽曲制作をする上で大事にしていることなどはあったりしますか?

Tok10 うーん、自分は言葉のアーティストだと思っているのでメッセージを具体的に伝えるというのではなく、あえて“抽象的”にして、聴いた人がその人なりの受け取り方をしてもらえるようにとは思っています。
 まぁでも普段から特に何か意識はしていないですね。直感というか作りたい時にだけ作る感じです。作りたい時って、例えば恋に悩んでたりだとか何か心に発散したいものがあるときなんですよね。だからそういう意味で僕にとって歌は、自分の気持ちを解放できるものです。

 ──すごく色々な曲調の楽曲がある印象を受けますが

Tok10 そうですね、その時の気分・直感で曲調を変えてきました。ボーカロイドっぽいものだったり、オルタナティブロックっぽいもの、メロウ、Lo-Fi、ハードトラップなど色々やりました。最近ではラブだったりチル系が多いですね。以前作った曲で『Mama』っていう曲があるんですけど、これはガチガチのハードトラップで最近のものとは真逆な感じです(笑)。

 ──その中で何かターニングポイントになったなという楽曲はありますか?

Tok10 『luv』という曲ですかね。今の自分のスタイルになった最初の曲です。それまで色々と模索してきて、どういうものが一番自分をよく出せるかって考えていたんですけど、この曲を作り終えたときに初めて「あ、これはうまくいったな」と思えました。一人で制作した楽曲の中では、初めて少し評価して頂けたものだったので自分にとっては大きかったですね。
 この曲、一見普通のラブソングなんですけど、実は上京して全く会えなくなった実家の犬に向けて書いた曲なんです(笑)。貴方っていうのを犬だと思って聴くと面白いですよ。


アートは人を幸せにするものなのに、アートをすることによってアーティストが幸せじゃなくなってしまう


 ──楽曲制作以外には「アートで食える」モデルケースを示すために活動しているとのことですが、それをやろうと思った理由は何ですか?

Tok10 身の回りのラッパーだったり、芸術家とかを志している人たちを見ていて、アーティストを目指す=社会不適合者みたいに周りから見られることが気になっていました。親に反対されることが多かったり。
日本にはアートを軽視する現状があると思うんです。でもアートって人の心を癒す重要なものです。だから、自分が「アートでも食っていけるんだぞ」というモデルケースになることで、アートの重要さを社会に示していきたいと思い、始めました。

 ──具体的にはどのようなことをされているのですか?

Tok10 まず、「アートは社会のためになるのに、社会からお金が払われないのはおかしい」ということを示すためにクラウドファンディングを行い、集まったお金でMVの制作をするということをしました。また、noteというサイトにセルフプロデュースの方法をまとめて公開したりもしています。

クラウドファンディングによって集まった資金で制作されたMV

TOK10のセルフプロデュースの方法をまとめて記録しているサイト
https://note.com/tok10

Tok10 アートは人を幸せにするものなのに、アートをすることによってアーティストが幸せじゃなくなってしまう現状を変えたいです。そのためにも自分が頑張ってモデルケースとなり、HIP HOPやアーティスト界隈を底上げ出来たらなと思います。


HIP HOPは元々アウトサイダー的文化
「固定観念にとらわれたくない」


 ──ラップといってもバトルだったり楽曲制作だったり色々な要素があると思うのですが、今のラップシーンに対してはどんな思いを持っていますか?

Tok10 今、ラップの世界では「こういう奴はダサい」とか「ラッパーは~しなきゃいけない」みたいな風潮が結構あります。でもHIP HOP自体始まりはアウトサイダー的文化だったと思います。元々社会のルールとかが嫌で始まったはずなのに、HIP HOPの中でのルールができていってしまうのには違和感があります。「ラップはこうでなきゃいけない」という固定観念にとらわれずにそれぞれのオリジナリティを伸ばしていったら、HIP HOPというものの価値が広がっていくんじゃないかなと思います。


「人の心を動かす」のがアート


 ──今後の展望について聞かせてください。

Tok10 まだ自分の楽曲に納得できていない現状があるので、今は自分自身の成長を図りたいなと思います。あとは、最終的に映画を作りたいと考えています。自分は「人の心を動かす」のがアートだと思っていて、僕が一番心を動かされるのが映画だからです。そこで、高校生でやめた映像を活かすことができればいいなと思います。

 ──楽曲制作についてはこれからこんな曲を作っていきたいというのはありますか?

Tok10 “Happyな曲”ですかね。今世界がコロナで暗くなってしまっているので。うーん、でもわかんないです。
 もちろん自分がどういう曲を作りたいかというのは一番大事だと思うんですけど、それを突き詰めすぎちゃうと自己中心的な音楽になる気がするんです。それが良い悪いという話ではないんですけど。
 「自分の曲が誰かの生活に染みこんでいる」という話をリスナーから聞いて、それが僕の中では重要だなと。16歳くらいの頃「俺は世界を変えてやる」とずっと思っていたんですけど、今、自分の楽曲で人の人生を変えているというのが、世界を変えているということにつながるんじゃないかなと思っています。芸術って、人に見られたり聴かれたりしてはじめて芸術になると思っているので、聴いてもらう人っていうのは僕にとってとても大切です。誰かの心の支えになったり、誰かの心を動かすことができる楽曲を提供したいとは常に思っていますね。


カルチャーはコロナウイルス


 ──最後に、我々が必ずする質問「あなたにとってカルチャーとは何か」についてお聞きしたいです。

Tok10 ちょっと変かもしれないですけど、僕が考えるカルチャーとは、今一番イメージしやすい言葉で言うとコロナウイルスです。人々の身体に知らず知らずのうちに入り込んで、それまでの価値観や行動様式を変化させる。そういう意味でカルチャーはコロナウイルスのようなものだと思います。

 ──ありがとうございました。

今月1stアルバムをリリースしたTOK10。そこに収録されている『アウストラロピテクス』という楽曲は今回のコロナ問題について考えたことを曲にしたものだという。アートを軽視する現状を変えるために活動するなど、彼は社会的一面も持ち合わせる。
「心を動かせなきゃ意味がない」
そうはにかみながら語る彼は確かな未来を見据えていた。

<FIN.>

取材・構成 Nozomi Tanaka
アシスタント Taiki Tsujimoto, Charlie Ohno

Official HP http://tok10.net/music/

5/9 1st album 『“10” the number of the dreams』released