
インタビュー Dancer KAZANE
HOUSEダンスチームLUCIFERのメンバーとして、小学生で全国準優勝、中学生で全国優勝、高校生ではJAPAN DANCE DELIGHTで2年連続特別賞を獲得し2014年のTOKYO DANCE DELIGHT で優勝するなど、キッズ時代から現在に至るまで数々のダンスコンテストで賞歴を重ねる。バトルにおいては、DANCE ALIVE HERO’S HOUSE side 優勝、パリ開催のJUSTE DEBOUT FINAL HIPHOP side 準優勝、チェコ開催のSDK EUROPE 1on1 battle HOUSE side 準優勝 HIPHOP side 優勝、など国内外で活躍。その他にも舞台出演やコリオグラファー、バックダンサー、インストラクターなどあらゆる分野で、ストリートダンスの可能性を追求し続けている。今回は、そんな新世代の筆頭としてシーンを引っ張る彼女に、これまでの歩みとマインド面の変化、シーンに対しての考え、今後の展望などを訊いた。
同世代からの刺激
──自己紹介と現在の活動について教えてください。
KAZANE ダンサーのKAZANEです。24歳です。今は個人と、LUCIFERというチームでの活動をしていて、ダンス歴は4歳からやってるのでもう20年になります。活動内容としては、ダンサーとして様々な仕事をしていて、大学生くらいまではとにかく自分がダンサーとしてパフォーマンスで引っ張っていく側。それがバトルであったり、コンテストであったり、ショーであったり様々なんですけど、パフォーマンス側でとにかく色々突っ走ってきました。でも最近はサポート側もやったりしています。例えば振り付けだったり、バックダンサーだったり、子どもたちに教えたり。その子たちが踊れるような場所を作りたいみたいなマインドも入ってきました。もちろんプレイヤーとしても引き続きやっているので、今はその2つの側面をどっちもやってる感じです。
──ダンス歴20年ということで、小さい頃から世界で活躍されていて全ダンサーが憧れている存在だと思うのですが、そんなKAZANEさんが職業としてダンサーになろうと決意したタイミングなどはあったんですか?
KAZANE 世界一のダンサーになりたいというのは小さい頃からの目標で、ダンサーとして様々な仕事をやっていきたいという夢はありましたが、私はダンスと関わりのない仕事とも両立していきたい派だったので、インターンはちょっと行ったりしてたんです。大変だと思いますが、実際に両立しているダンサーもたくさんいるし、話も聞いたりして、私自身もダンスとは違うやってみたい仕事もありました。でも、実際やってみてなんかすごい気持ち悪かったんですよね。インターン先はクリエイティブなことするっていうよりかは、割と型にハマって同じようなことするみたいな仕事で、最初はそれはそれで面白そうと思ってやったもののあまりハマらなくて。インターン中とかも次のショーのネタのことをすごい考えてたりとか(笑)それでその時に、「あ、私やっぱりダンスで色々やる方が絶対向いてるわ」と思いました。実際、ダンス以外の仕事って本気でやりたかったら、空いている時間を使えば色々習得できるものもあるし、別に今じゃなくてもできるなって、、、。でもそこに行ってみて気づけたことだったので、やってよかったとは思ってます。今自分がすごくダンスへの熱がある時にダンスしないでどうすんだって思って、「あぁもうダンスで行こう」って社会人になるきっかけで完全に決意しました。
──なるほど。そしたらもうほんとにここ数年というか2,3年前ぐらいの出来事って感じですか?
KAZANE そうですね。割とそう。
──もう今となっては誰もが知っているダンサーだと思うんですけど、自分が一番ここでsell outしたなというか、自分がここのタイミングでpropsを得た、有名になったみたいな大会とかってご自身の中でありますか?
KAZANE 何だろうな。多分二個あって、小学校6年生の時にMAiKAと出たJuste DeboutとJapan Dance Delight 20周年のLUCIFERかな。
──たしかに本当に小さな頃から自分の地位を確立されて来られたって感じですよね。
KAZANE いやぁたぶんもともとキッズダンサーがそんなにいなくて、いたんですけどみんなどんどん辞めていっちゃって。私が小学校の時とかに同世代でいたダンサーだと、LUCIFER、RUSHBALL、BAD GUEEN、Funfare、あとKING OF SWAGのYUSEIとか、、、。そこらへんはもうずっと昔から一緒でした。今のキッズダンス人口に比べると少ないけど、熱い子が多かったんですよね。自分の周りがみんなモチベーション高かったし、上の世代の方々からもそういうふうに見てもらえてたのかもしれないです。
──もう世代としてかなり熱かった?
KAZANE ダンスの上手さとか、そういう実力の部分というよりかは気持ちが熱かった。「やっぱこの世代熱いよね」っていつも思っていて、それが逆にプレッシャーとかにもなって、めちゃくちゃ頑張ってた世代だったので、リスペクトもあったし、負けたくなかったです(笑)
海外に行くことで変化した自身のマインド
──KAZANEさんにとっての転機となった出会いや出来事は何かありますか?
KAZANE 出来事でいうと、海外の世界を知れたJuste Debout。自分のダンスに対するマインドが変わった瞬間でした。
出会いだったらやっぱALMAのHIROさんですかね。HIROさんの存在は大きいです。何がきっかけだったかな?もともとHIROさんのチームメイトであるALMAのHyROSSIさんとか、DANCE ALIVEのオーガナイザーの神田勘太朗さんとかのハウスダンスのレッスンを受けてたんですよ。そしたら、あるダンサーにたぶんKAZANEの踊り方とかマインドだったらHIROさんのレッスン行った方がいいよって言われて。で行ってみたらHIROさんのレッスンの進め方とかがすごく自分は好きで合ってました。それで習ってたら、私が海外とかにすごい目を向けているのを知ってくださっていて、海外のキャンプとかに誘ってくれたんですよ。それこそSDKというダンスキャンプが毎年チェコで行われてるんですけど、HIROさんに誘ってもらってからは毎年行ってました。そんな感じで、海外にこういうのがあるというのを教えてくれた人でしたね。そういう意味で、あの人は日本のダンサーはもちろん海外のダンサーからも信頼されてて、日本人と海外の人を繋ぐ重要人物というか、その立ち位置にいるのはすごいなって思います。あの立ち位置になりたいという考え方になったきっかけでもあります。
──今2つの転機が出てきて、両方とも「海外に行く」というところがポイントかなと思ったのですが、海外に行くことによってKAZANEさんのマインド面で何が変わったんですか?
KAZANE 日本では、日本ではという言い方は良くないですけど、私が小さい頃感じていたものは、自分の中でこうしなきゃHOUSEじゃないとか、こうしなきゃHIPHOPじゃないみたいな感覚が勝手に形成されていました。でも、初めてヨーロッパに行ったときに思ったことは、それがなかったんですよね。割とどんなジャンルでもフリースタイルな感じ。上手いし基礎もあるし技術もある。でもちゃんと各々がやりたいことやってるみたいな。そこは驚きましたね。
あとは、日本って凄く年功序列の世界じゃないですか。年功序列だからこそ、ちょっと生意気な子がいたりとか、逆に凄い怖い先輩がいたりとか、結構その年功序列がピシッてあるから良いこともあるし、逆にマイナスな部分があったりする。でも海外ってみんな仲間みたいでラフなのに年功序列がある、っていう感じで順番が逆なんですよね。もちろん敬語とかが日本のように無いので会話はラフに聞こえてしまいますが、上の世代の方にはめちゃくちゃリスペクトがあるみたいな。その順番だからこその良さもあるんだろうなと思って。年功序列があってのじゃなくて、みんな仲間だけど、しっかりリスペクトがあるみたいな、その文化が私はすごい好きでした。
──ダンスをしていく上で大切にしている考え方を教えてください。
KAZANE 自分はダンスを好きだからやってるんですけど、その中で仕事として踊るのも好きだし、パーティーとかで自由に踊るのも好きなんですよ。だからダンスは仕事だけとか、逆にダンスは自由なだけでいいっていうのじゃなくて、そこの固定概念は持たないようにとは思ってます。なんかその固定概念が強すぎて、見落としちゃう大事な機会って絶対あると思うんですよ。こういう固定概念がありますって言ってると、仕事振る側もこの人はこういう仕事しかやりたくないのかなっていうふうに捉えられるじゃないですか。今はSNSとかで表現したりもできるのでそこはわかりやすい。でも私は割と何でも好きなんですよね。もちろん自分の中に軸はあるのでなんでもかんでもやりますって訳じゃないんですけど、その軸があった上でオープンです。ダンスをビジネスとして型にはまったことだけにもしたくないし、だからといって、カルチャーの要素のみを貫いてパーティーで一生踊っていたいというマインドだけでもない。私自身それで色々な方向の人に出会えたので、オープンなマインドでいれることはすごい良いことなんだなと思ってます。
──現状としてダンスがまだあまり世間に理解されていない部分がある中で、D.LEAGUEなどでダンスをより一般化しようといった動きも出てきていると思うのですが、その理解のされ方などでKAZANEさんが思うところはありますか?
KAZANE 理解をされることはとても嬉しいことです。ただ、ダンサーの中で勝手に理解できている当たり前が世間の人たちには当たり前じゃなくて、でもそこも評価されるよっていうのをダンサー側も理解して構えていればいいと思います。例えば日本のダンサーの中では、この人がトップクラスで、この人はまだ初心者というのが踊りや存在で判断できるじゃないですか。でもダンスを知らない人が見たときにはそれがそうじゃなくなる。自分達が他の競技見たときに詳細な部分がわからないっていうのと同じように。その人が見たまま伝わるので、まっすぐストレートな評価がくるとは思うんですよね。それがプラスの評価であったらとても嬉しいですが、もしマイナスの評価であったとしても、そこを気にしすぎないで「私はこのスタンスです」っていう風に自分をしっかり持ち続ければ、大丈夫だと思います。ダンスを世間一般の方々に知ってもらえるのはとても嬉しいことですからね。でも芯はしっかりと。

子どもたちに「経験」できる場所を
──新型コロナウイルスの影響をダンスシーンも大きく受けたと思います。それについて考えていることはありますか?
KAZANE そうですね…うち実家がダンススタジオなんですけど、緊急事態宣言が出てレッスンとかができなくなった時に、速攻オンラインレッスンをやりました。その時やっぱり人にすごく助けてもらいましたね。先生だけスタジオに来たりとか色んな手を使って、先生や生徒にはすごい協力してもらってなんとかそれが継続できました。そしてスタジオの生徒達も喜んでくれました。その時に、大変なことがあったとしても、人と手を組んで頑張れば、ダンスってどうにかできそうなシーンだとも思ったんですよ。本当に協力し合える人と何かをすれば保てるシーンだなと。ちょっと言い方悪いかもですけど、コロナになったからこその出会いもありました。やっぱり結局人と人なので、そこを大切にしていけば何か絶対に形を作ることはできるんじゃないかなと思いましたね。
──今KAZANEさんが一番したいと考えていることもコロナきっかけだったそうですね。
KAZANE はい。コロナでバトルやコンテストなどのイベントが無くなっちゃってるじゃないですか。それで生徒の中にバトルが無くなったって知った瞬間に泣いちゃった子がいて。なんか私は負けて泣くとかはあったんですけど、踊れる場所がなくて泣いたことはないので、何もできないでそうなっちゃうのはすごいかわいそうだなと思いました。だから本当に今思うのは、クオリティとか規模は小さくてもいいんですけど、なにか子供達が経験をできる場所を作りたいってことですね。
結局自分は小さい頃色々経験をさせてもらったから、やりたいことが選べる。こういうのは面白かった、こういうのはそうじゃなかったとかっていうのが経験としてあるんですよね。でもただレッスンを受けて練習だけしててもそれを発散できる場所がないと、その時に思う感情が作れない。その時の嬉しい楽しい悔しいとかをいっぱい経験しておいたほうが絶対大人になったときに自分で選べる人になれると思います。だからその泣いてる子を見たときに、これは私が作るしかないって思いました。今まではそんなこと思ってなかったんですよね。上の方々が色々作ってくれてたからだと思います。自分の今までの経験を生かして、良かったことやこんなことあったらよかったなというものを形にして、今度は自分がそういう場所を作ってあげられたらなっていうのが、今素直に思うことですね。そのために自分自身がもっと頑張らなきゃいけないというマインドにもなれてます。
──KAZANEさんにとってのダンスの最大の魅力は?
KAZANE えー全部好きなんだよなぁ。1人で好きな音で踊ってるのも好きだし、もう何万人の前でバン!KAZANEですってやるのも好きだし。まぁでもめっちゃありきたりなんですけど、自分を一番出せる場所なことですかね。私は言葉も上手じゃないし、小さい頃とかはすごい人見知りでした。だからたぶん私にとって自己紹介するにはダンスが一番良い。自分が一番素のまま表れるのがダンスなんですよね。
──KAZANEさんが思う「イケてる」とは?
KAZANE 私にとってのイケてるは…うーん、イケてるはイケてるですよね(笑) でも基本的に自分がやってることは全部イケてると思ってます。
──イケてることしかやらないというか?
KAZANE んー、でもその「イケてる」の価値観って絶対人それぞれ違うじゃないですか。だからこそ自分がやってることは全部イケてると思ってるんですけど、でもじゃあ例えばこの曲で振りを作ってくださいと言われて、その曲がイケてないと私は思ってても、それが向こうにとってはイケてるだとしたらやってあげたいとも思うんですよ。だからその「自分の中のイケてるはこれです」っていう明確な基準は無いんですけど、でも「イケてる」と誰かに思われてて、その人の強い信念があったり、良い人だなと思う人だったらそれを大事にしたいとは思ってますね。
──なるほど。人それぞれ違うからこそ、認められるし自分を曲げる必要もないということですね。それでは最後に、KAZANEさんが思う「カルチャー」とは?
KAZANE そうですね。まぁでも絶対になくならないものなので、カルチャーって。そこを私は楽しんでいきたいっていうか。うーん、カルチャーは楽しんでいれば、良いって思っていれば、絶対に継がれていくものだと思うので。だからカルチャーを守らなきゃいけないっていう感じよりかは、なんかそれを含めて楽しんでいきたいっていうマインドですね。楽しんでいけば勝手に好きになるし、やっぱり好きでいる限り絶対に残るものだと思います。そういう意味で私はこのカルチャーを大事にしていきたいですね。
──ありがとうございました。

取材 Taiki Tsujimoto
構成 Nozomi Tanaka