インタビュー YouTuber Shamas
日本の大学を中退後、アメリカに留学。現在はYouTube『Shama Station』、Twitter『日刊US HIPHOP NEWS』で毎週末最新のUS HIPHOP業界のニュースや新曲情報を配信。黒人の奴隷制度からはじまる事細かいHIPHOPの歴史動画は、HIPHOPファンから根強い人気を得ている。そんな彼のHIPHOPカルチャーとの出会いや、歴史動画を作るに至った経緯に迫った。
趣味を越えて啓蒙へ
──改めて自己紹介と、現在の活動内容をお願いします。
Shamas 今のところ、主にYouTubeで『Shama Station』として、週1でUS HIPHOPの取りたてのニュース動画を配信させていただいています。しゃますと申します。ツイッターの方でも『日刊US HIPHOP NEWS』でニュースを配信させていただいています。
──YouTubeを始めたきっかけについて聞かせてください。
Shamas 始めたきっかけとしては、日本のHIPHOPのニュースメディアも結構見てきているんですけど、新曲を紹介しているコーナーが結構少ないなと思いまして。今出てきたて、とか、日が射してないけど絶対に紹介したい、みたいなラッパーって結構いるんですけど、そういうのを紹介してるメディアがあんまりないなと。自分がYouTubeっていう場を使って一気に紹介できたらなと思ったのが一つと、シンプルにYouTubeっていう母体でUS HIPHOPのニュースを紹介しているメディアがないなと思ったんで、まとめてやったら面白いんじゃないかってことで始めましたね。
──なかなか日本にいながら新鮮な内容を仕入れるのは難しいと思うんですが、情報源はどこから?
Shamas そうですね、自分はツイッターでフォローしてる、XXLだったり、No Jumper、SAY CHEESE!とか、Complex Newsとかの、HIPHOPをメインで扱っているツイッターアカウントが主な情報源になってます。もっと詳細なことを掘りたいなってなった時は、ホームページに飛んで、それぞれの記事を読んだり…あとはアメリカのHIPHOP YouTuberの人たちが、一つの事件を細かくまとめてくれてたりするので、それをみて情報を得ているっていう感じ、ですかね。
──なるほど、留学とかされてたんですか?英語が堪能なイメージがありますが…
Shamas 堪能じゃないんですけど笑 留学はしてまして、二年制のコミュニティカレッジに2年行って、そのあと四年制の大学に3年生として編入して、今本当は、向こうの大学の3年生なんですけど、HIPHOPの歴史動画っていうのを作るために、休学をしてます。なので一応大学3年生で、まだ留学生の身分ではあります。
──その歴史動画を作ろうと思ったのは、何か個人的な狙いがあったりとか?
Shamas そうですね、理由っていうのは色々あるんですけど、このタイミングじゃなきゃいけないって思ったのが、今フリースタイルダンジョンとかの影響で日本でHIPHOPが活性化してきて、いろんなラッパーが出てきてるって時に、HIPHOPのルーツまでちゃんと発信できているかとか、ルーツまで汲み取れてるリスナーがどれくらいいるかっていうのを考えた時に、日本ではただの音楽のジャンルとして扱われている気がしてならなかったんですね。もちろんルーツを大切にしているリスナーもいるし、ラッパーもいるんですけど。他の音楽ジャンルもそれぞれ歴史があるけど、やっぱりHIPHOPは他のジャンルとは違うんだぞっていうのを、ちゃんと改めて日本の人たちにも知ってもらいたいな、って思ったのが一つあります。あと、グローバル社会になってきて、黒人の方を含め外国の方が結構日本にきてるじゃないですか。ってなった時に、差別されてきた長い歴史があることを知らないで、例えば、ただ曲で使われてるからっていう理由で、Nワードをクラブとかライブでパッと言っちゃったりだとか。いちHIPHOPリスナーとして、Nワードの歴史だったり、HIPHOPとかFUNKが生まれた背景っていうようなところをやっぱり知っておいた方がいいと思ったんですよね、単純に。そういう教育的な意味でも、自分が広めていきたいな、って思いました。
──動画を配信していて学んだことはなんでしょうか?
Shamas 日頃からUS HIPHOPの情報を目に通していて学んだのは、メディアリテラシーですかね。例えばある事件に関して、片方側からずっと情報を得ていたら、嘘のことでも本当と思ってしまう。露骨にあったのが、アメリカのラッパーってギャング事情が色々ありまして、たまにライバル間で事件が起きた時に、ラッパーたちがインタビューを受ける時があるんですね。各々主張するんですけど、どうも辻褄が合ってないことがあるんですよ。だからラッパーのギャング事情から学んだこととしては、誰が本当のことを言っていて、誰が嘘を言ってるかわからないから、事実確認として、両サイドからの情報をちゃんと仕入れて、自分の中で「これが本当だ」って見出すことが大事。情報はいろんな角度から仕入れた方がいいっていうのを学びましたね。
母とゴスペル
──HIPHOPをそもそも音楽として好きになったきっかけというのは?
Shamas 高校2年生ぐらいの時に、スカパーの『BAZOOKA!!!』っていう番組で高校生RAP選手権のたしか第2回?をやってたんですけど。その番組の全く別の回の公開収録に友達と一緒に行って、オープニングに奇跡的に映り込めたんですね。そのオンエアをチェックしようと思って、YouTubeで『BAZOOKA!!!』に飛んだ流れで高校生RAP選手権第2回をみて、「なんだこれくそかっこいいなこのラップバトル」みたいな(笑)それでまず日本語ラップバトルから掘り下げていって、最終的に*UMBとか*ADRENALINEとか*戦極とか、色々を掘り下げて、チプルソっていうラッパーの方がいらっしゃいまして。そのチプルソさんのライミングというか、ぱんぱん出てくる感じに惹かれて、最初日本語ラップにめちゃくちゃハマったんですね。
そのあと、留学に行って、向こうの友達の車で、トラップをがんがんかけられて。最初めちゃくちゃ気持ち悪かったんですけど、だんだん聴いていくうちに中毒性がやばくて。ラーメン二郎みたいな感じで、なきゃやばいでしょこれみたいな(笑)それでトラップにハマってって…もともと自分ブラックミュージックが親の影響で好きだったんで、掘り下げてみるかってなりました。
*Ultimate MC Battle、ADRENALINE、戦極MC BATTLE…日本で開かれているフリースタイルラップの大会。
──そうなんですね、親の影響というのは?
Shamas お母さんがダンスが好きな人なので、Earth, Wind & Fire とかStevie WonderとかMichael Jacksonとかのブラックミュージックを聞いて育っていて、それが音楽的には自分の根底にあると思いますね。あとは、お母さんと『天使にラブソングを』っていう映画を観た時に、ゴスペルがかっこ良すぎる、ってなった経験もあります。画面越しですけど、日本の人には出せないエネルギーだったり、声量だったり。それで後日お母さんに連れられて、渋谷に来てるニューヨークから来たゴスペルの聖歌隊の人たちの生の歌を聴いて、ちゃんとブラックミュージックを好きになったっていう感じですかね。一番最初はゴスペルですね、ちゃんと衝撃を食らったのは。
──影響を受けた人・もの・コンテンツは?
Shamas やっぱり母親の影響が音楽的には強いですね。ゴスペルがやっぱり自分がブラックミュージックに入り込んだきっかけだったので。ものでいうと、最初に渋谷にゴスペル聴きに行った時に手売りしてたCDなんですけど、クワイヤの人たちと撮ってもらった写真とか、サインもあったりして。影響を受けたコンテンツに関しては、US HIPHOPのYouTuberで、Marvellous Beatzっていう人がいるんですよ。その人が動画で結構考察をしていて。例えばSNSの流行がどうやってラッパーたちに影響を与えたかとか、2017年にサウンドクラウドラッパーが生まれた背景には何があるかとか。そうやって、社会情勢とHIPHOPの流行を混ぜ合わせながら説明してるっていう人がいるんですね。このやり方めっちゃ面白いじゃん、と思って。そういう意味では自分の動画作りに影響を与えてる人はそのMarvellous Beatzっていう人かもしれないですね。結構面白いですよ。
──人生の転機になった出来事・出会いは?
Shamas 歴史動画を作ろうと思ったきっかけの一つとしては、ドイツに一回行ったことがありまして、そこで露骨に差別されたことですかね。アジア人どうのこうのみたいな。だからそういう差別体験で、黒人の方が受けてきた気持ちが少しわかったというか。これってすごい不快な気持ちになるし、本当によくないことだなって。こういう思いをする人をちょっと減らしていきたいなっていうことで、HIPHOPの歴史動画を作るきっかけにもなったので…自分が当事者になって差別されたっていうその出来事は転機ではあるかもと思いますね。
──その差別体験を踏まえて、話題に出ているBLMムーブメントについて考えていることは?
Shamas 日本に生きる身としては、海外で起きてる他人事としてではなくて、同じ2021年を生きている同じ人間として、日本でアジア人として生まれてるだけでどれだけ安全で恵まれているかっていうのを再実感するのは必要だと思います。目を背けるんじゃなくて、自分がもしこういう場面にあったらどういう行動をとるだろうっていう、自分なりの考えを持つことが大事なんじゃないんですかね。
──次に、生きる上で大切にしている価値観はありますか?
Shamas これはHIPHOPとか全然関係なくて自分の話をすると、自分の直感に従うことですね。自分日本の高校からエスカレーター式で大学1年間だけ行ったんですけど、どうしてもちょっと合わない気がしたんですね。その自分の違和感が拭えなくて、結果辞めてアメリカに行ったんですけど。辞める選択をしてから、自分のやりたいことというか、いい方向に進んでいきまして。いい感じの循環もおかげさまで生まれたのも、全部自分の直感に素直に従ったからだと思ってるんですね。だから結構どの場面でもこれは大切になるのかなと思って、大切にしてますね。

──あんまり日本のHIPHOPについて発信はされてないと思うんですけど、何か思うことはありますか?
Shamas やっぱり日本には独特のリズムのとり方とか韻の踏み方、ビートメイキング、日本人にしかできないサンプリングの仕方とか色々あると思うんで、せっかくなら日本特有の音とか効果音とかを使って、クラシック作品を作ってった方が、のちの日本のHIPHOPの発展につながるんじゃないかなって思います。海外の大まかな流れを把握するのは必要ですし、真似するというのもめちゃくちゃ効果的なことで、フローの発展にもつながると思うから、全然いいと思いますけど。やっぱり後世に残るような、日本に根付きまくったラップをやる人がもうちょい増えてもいいなと思いますね。
──今後の展望について教えてください。
Shamas やりたいことのうちの一つとしては、Clubhouseでなんかイベントができたら面白いなっていうのがあります。最近リスナーの方達と交流して出た案としては、例えば、週1ぐらいで、ラップ披露したい人を集めて、30秒ぐらい時間を与えて、そこでフリースタイルしたりとか、ビートコンテストを開催したりとか…まあなんかClubhouse活かしてHIPHOPイベントみたいなのをやりたいなって思いますね。YouTubeの方も続けながら。
──YouTubeは登録者数もっと増やしていきたいっていうのはあるんですか?
Shamas いや、始めた時から、3万が限度だなっていうのは思ってたんですよ。ありがたいことにもうそろそろ4万いきそうなんですけど、日頃あげてる動画のアベレージ再生回数からして、まあこれ以上は伸びないでしょうっていう感じなので…とりあえず今ついてくださっているリスナーの方々を大切にこれからもしていきたいなって思ってます。
HIPHOPという惑星に生きる
──HIPHOPの最大の魅力は?
Shamas やっぱりHIPHOPは他のジャンルと違って、いろんなジャンルを巻き込める。例えば、HIPHOP R&Bっていう言葉があったり、HIPHOP EDM、HIPHOP REGGAEとか、FUNK、SOULとか…いろんな掛け算ができて、それを得意とする唯一のジャンルだなと思ってるので。HIPHOPっていう一つのジャンルだけで、いろんな楽しみ方ができるっていうのが一番の魅力じゃないかな。それだけで一つの世界なんで、HIPHOPって。惑星というか地球というか。無限にあくなき探検ができるっていう唯一のジャンルなんじゃないですかね。
──人生で一番心に残っている一曲は?
Shamas ありきたりな答えで申し訳ないんですけど、Snoop Doggと Wiz Khalifa の『Young, Wild and Free』なんですよね、結果(笑)やっぱどのいい思い出にもあの曲は一回流してるし、サビが口ずさみやすいっていう部分で、ラップとかあんまり知らなくても、そこだけはみんな合唱できるし。どこいく時でもいい思い出と一緒にいたっていうのがその曲ですかね。

──Shamasさんにとって「イケてる」とは?
Shamas 色々定義があると思うんですけど、究極は、自分のオリジナリティに自分が一番自信持ってることじゃないですかね。自分のオリジナリティをちゃんと発信していけるっていうのは、やっぱ自分が好きな証拠じゃないですか。自信があることをずっとやっていけば、その人の自信っていうのは波及していくものだと思ってて。この人自分好きすぎるだろ、っていうのでもいいし、この人の声すごいなとか、なんとも言えないオーラがあるな、みたいなのってあると思うんですけど。それって結局自分が好きで、自分のオリジナリティが好きで、突き詰めた結果、自分に自信が生まれて、自分を愛して、ちゃんと発信できている。そのありふれる自信に相手が圧倒された時にそれが「イケてる」になっていくと思います。
──最後に、カルチャーとは?
Shamas カルチャーはそうですね…大枠の定義は居場所かなと思ってます。自分だけの居場所でもいいし、他人と集まるための居場所でもいいと思っていて。HIPHOP=カルチャーっていう話からさせていただきますけど、例えば現実世界で生きるのが辛かったとしても、HIPHOPを好きな自分がいて、HIPHOPを聴いてる、カルチャーに触れてる時間っていうのは、自分が一番楽しめて、落ち着ける居場所だと思ってるんですよね。それはアートでも同じで、この絵が好きだ、このアニメが好きだ、って没頭できてる時って、ちゃんとこの世界の中にそういう居場所があることだと思うんですよ。っていう風に、個人的に落ち着ける居場所である、それがカルチャーであるっていうのが一つ。
あとは人と繋がれる。例えば人種とかが違くても、このアニメが好きなんだよねって言ったらそれだけでお話が始まるじゃないですか。あとは、今同じ時間軸で生きてる人じゃなくても、例えば2Pacの曲を聴いただけで、2Pacの生きてる言霊を今でも感じ取れる。それってカルチャーが繋いでくれる、その居場所が繋いでくれてることだと思うんですよ。そういう意味で、いろんな人と繋がれる。どんな時間軸でも、人種でも、何でもかんでも繋いでくれる、居場所なんじゃないかなって思いますね。
──ありがとうございます。
取材 Nozomi Tanaka
構成 Kiriko Fukutome