
インタビュー JAZZ Singer 彩菜
カリフォルニアの高校でジャズと出会い、現在日本でジャズシンガーとして活動する彩菜。今年3月には自身初となるEP「Nineteen」を発表。
フルアルバム制作の為のクラウドファウンディングでは100万円以上が集まる程、彼女の歌声と音楽性は周囲を魅了する。そんな彼女に、音楽やジャズとの出会いからジャズに対する想い、今後の活動についてを訊くことができた。
自分の世界観を深めてどこまで遊べるか
──早速ですが、自己紹介をお願いします。
彩菜 彩菜のステージネームでジャズシンガーとシンガーソングライターをやってます。二十歳になったばっかりなんですけど、19歳の時にミニアルバムを出して、自分のオリジナル曲が5曲入ったものです。
──クラウドファウンディングでのアルバム制作も予定されていますよね?
彩菜 この夏ミニアルバムを作ったことをきっかけにプロモーションライブで地方に行ったり、ジャズの音楽フェスティバルに色々出たりする予定だったんですけど、コロナの影響でなくなっちゃって、ライブの数も少なくなっちゃって。それで、元々フルアルバムは作りたいってずっと思っていたので、周りのアーティーストがクラウドファウンディングを始めていたのもあってフルアルバム制作に向けて自分にできることをやろうかなと思って始めました。
一応もう達成はしたんですけど、元々100万円集めたくて。でもオールオアナッシング方式で、全部集められなかったら0になっちゃうから目標金額を低く設定しておいた方が良いですよっておすすめされて。だから目標金額を80万円にしたんですけど最初の2週間で目標金額に到達して、気づいたら3日後くらいに100万に到達してたので、本気になれば結構いけるもんなんだなって思って。残り一カ月半くらいあるんですけど、気長にゆっくり期間が終わるまでって感じです。
──前回のミニアルバムと今回のフルアルバムの違いを教えてください。
彩菜 最初のミニアルバムは、一緒に音楽を作ってるプロデューサーの塩田さんと相談して十代の内に素の私を録音したものを作ろうってことになりました。だから写真も友達に撮ってもらったり、歌詞も自分で手書きしたりして。まあ書くことが好きなので、手書きの物をジャケに入れたりとか。素材のままの私みたいなものをとりあえず形にしたくてミニアルバムを作りました。去年のちょうど10月くらいに制作してから一年経って、もっと自分の世界観を深めていきたいし、皆さんからご支援いただいたお金で自分が本当に作りたいものを作りたいです。今度は逆にどこまで遊べるのかなっていうコンセプトで、もっと色々加えたりしながら音楽観とか世界観をより深めていきたいなっていうのが次のフルアルバムです。

彩菜という音楽の追求
──ジャズシンガーとして活動するに至った経緯は?
彩菜 元々、ジャズダンスとか踊ったりミュージカルっぽいものをやってて。母が亡くなる前も夏休みにミュージカルみたいなのを三日間くらいのをやったりしてて、母もすごい応援してくれてたんですけど最後の年はあんまり観にこれなくて。中学生だった私は何もわかってなくて、突然のことで。ずっと人間って生きてるものだと思ってたので。お葬式の時に娘からの最後の言葉みたいな感じで手紙を読んで欲しいっていうコーナーがあって、でも心の準備ができてなくて何言えばいいか分からなくて。それで母が観に来れなかったミュージカルのソロのシーンがあったんですけど、それがたまたまThe BeatlesのI Wanna Hold Your Handっていう、あなたの手をただ握りしめたいって曲で。それを歌った時に、感情が言葉じゃなくて違う形で自分の外に出てくってこういうことなんだってすごい思って。全然ピアノとかは弾けなかったんですけど、それから詞を書き始めたりメロディーをそれに口ずさんだりしてみて。それで作詞作曲を勉強しようって思って、アメリカにも行きました。
高校3年間はアメリカのカリフォルニア州の山奥にある芸術学校に通って作詞作曲のコースを選んで勉強をしました。アメリカって歴史は短いんですけど、ジャズはその中で生まれた唯一といっていいほどのアメリカンカルチャーみたいな。日本だとジャズって聞くとおしゃれな、それこそバーとかで流れてるような気取った感じだと思うんですけど。多分アメリカではみんな小さい頃から聞いてる音楽なので、みんなの血に入ってて。ジャズの専攻の授業に潜ってた時に、授業が座学っていうよりもその先生の人生を学んでるみたいな感じで。ベーシストで84歳とかのすっごいかわいいおじいちゃんなんですけど。昔、マイルス・デイヴィスっていうジャズ界のレジェンドみたいな方と昔バンド組んでたそうで。その授業を受けてジャズって面白いって思って、ジャズを聴き始めて歌い始めたって感じです。
──そこからジャズシンガーに?
彩菜 ジャズのボーカルのコンサートで先輩が歌っててめっちゃかっこいい!と思って。その先輩はイスラエル人かなんかなんですけど、髪の毛とか見た目も含めてすごいかっこよくて。ミーハー心から私もカッコよくなりたい!って感じで始めました。

──ジャズシンガーとしての転機はいつですか?
彩菜 元々高校を卒業してから、大学はNYのジャズの学校に通うはずだったんですけど、アメリカの大学って授業料がすごい高いじゃないですか。学費が高すぎてどうしよう、と思ったんですけどアメリカの大学って一回入学オッケーしてもらって一年入学をずらせるんですよね。ギャップイヤーって言うんですけど、その間に日本で奨学金に応募して資金面をどうにかしてみようと思って。周りが大学とか行き始めてる中、自分は朝起きてなにしよかなーみたいな日が続いたので、その一年は自分にとっては空白の時間ですごい落ち込んでた日々でした。
そんな時に代々木NARUっていうジャズのライブハウスの老舗で働き始めて、ちょこっとずつ日本のジャズの音楽シーンを知り始めました。ミュージシャンの方と知り合ったりライブも始めたりして、今のプロデューサーの方とも知り合って。
受けていた日本の大学も決まって、このまま日本にいて日本でベースを固めてみようと思って一年で色々広がりました。家族に音楽が系の人が誰もいないので、最初は何すればいいんだろうみたいな感じだったんですけど、すごい応援してくれたのは嬉しかったですね。
──日本のジャズシーンから影響を受けたんですね。
彩菜 日本の音楽業界と言ったら大手に入って契約結んでメジャーデビューして、みたいな感じに最初はミーハー心から憧れました(笑)でも、段々ジャズクラブでアンダーグラウンドの音楽っていうか、みんな好きな音楽をやってるのを見て自分も自分の音楽っていうのを追求したいなと思って。メジャーシーンっていうよりももっと自由な世界で色々見てみたいなと思ってジャズのライブハウスでライブを重ねてます。
でも今はジャズだけじゃなくてトラックメーカーとも色々作ってみたり。生楽器とのバンドはある意味制約の中での音楽を形にするって感じなんですけど、同世代のトラックメーカーとかとやってるのは実験室みたいな感じで。お金の制約も時間の制約もなく何ができるかっていう違う世界を探究してます。私はジャズっていうよりも自分の、彩菜っていう音楽でやっていきたいなって思ってるので。
2018-2019年のギャップイヤーは何もわかんない状態から何でも飛び込んでみよう、何でも出向いてとやってみようみたいな感じでした。2019-2020年はやっぱアルバムを作ったのがすごく大きい一歩でした。ライブとは違ってこの作品が一生残るんだっていう気持ちで作品を作っていくプロセスを通して、アーティストとしてもシンガーとしても考え方も観点も色々変わったっていうか。その経験を踏まえた上でライブするとまた違うし。この一年はまだ全然アーティストとしては駆け出しなんですけど、自分にとっては大きかったかなと思いますね。
──日本で大きく成長したんですね
彩菜 あと、人との出会いもがらっと変わってて。ここ(The Room)も結構色んな方が出入りする場所で、出会う人が変わって刺激の受け方も違います。
──印象的な出会いはありますか?
彩菜 ここはサンダーキャットさんとか、海外のアーティストも含めて色んな方が出入りするので、例えば、バーテンやってた時に海外のバンドが来て、何してるの?今回日本のどこで演奏するの?って聞いたら、3日後にフジロックみたいな。調べてみたらめっちゃいけてるバンドで、そっからUKジャズにのめり込みました。ここにいるおかげでそうやって色んな音楽をしてる方と出会って新しい音楽にも触れられて。ジャズの箱にいるとジャズだけになっちゃうんですけど、ここでは色んなかっこいいバンドが毎日演奏してたり、かっこいい音楽をひたすらやってるおじさんたちとか沢山いて。そういうのをみて音楽を追求してる人たちっているんだなーって新鮮な刺激を受けました。
音楽は感情を吐き出すツール
──活動の中で学んできたことや気づきを教えてください。
彩菜 ジャズは100年くらい歴史があるんですけど、昔に作られた曲をみんなが歌い継いで、演奏し続けているのがジャズなので、カバーっちゃカバで。セッションとかインプロのイメージが強いのかなと思うんですけど、自分で曲を作るっていうよりも既存の曲を自分なりに解釈してアウトプットしていくみたいな。音楽を感情に乗せてぶつけるその時その時、瞬間ていうのがジャズなのかなっていう。
最初はカバーっていうイメージだったので、みんなが歌ってる曲でどうやってオリジナリティを出していけばいいんだろうってことで悩んだことがあるんですけど、自分の曲を作って歌うときは無になることを大切にしてて。上手く歌おうとかこここうやって魅せようとか考えちゃうとやっぱ自分でもうまくいかないというか、考えてない方がいいパフォーマンスができるっていうか。音楽ってお客さんとのコミュニケーションって言う人もいるんですけど、私は勝手にこっちが世界に入って、お客さんは片思いみたいな感じで。コミュニケーションっていうよりも私が自分の世界に入ってて、それに賛同してくれる人がいたら嬉しいなと思ってます。

私が影響を受けた方が、ニーナ・シモーンとかエイミー・ワインハウスって方で、歌を歌ってるアーティスト、シンガーってよりも人間として野性的過ぎて。音楽に救われてるっていうか音楽に頼ってるんだなみたいな、音楽に乗っ取られてるんだなって本当に思って。音楽として歌ってるんじゃなくてそれをツールとして自分を内側から吐き出してるっていうか、そういう感じがして。スクリーン越しでみても共鳴する部分があって、ただ歌で思いを届けたい以上の何かがエネルギーがすごい動かしてるんだなその人たちをって思ってて。
特にニーナ・シモーンは、黒人の差別運動のアクティビストでもあって。ただただ自由になりたいって言ってて、音楽で彼女は自由になっていたんだなって。そういうアーティストをみて、ただ、聴くだけの音楽じゃないんだなーって。自分も歌ってて暗い曲とか好きなんですけど、明るい曲よりも人間のドロドロした本当に頼らなきゃいけない部分をさらけ出した時に自分なりの音楽になるのかな。
──カバー文化の中で自分の音楽を出すことは難しそうに思えます。
彩菜 ジャズは暗い感じが好きで。黒人が奴隷として働いてた時から口ずさんできたメロディがそのままジャズになった曲もあるので、こんなの歌ったらみんなハッピーになれないじゃん!みたいなものなんですけど、それはみんなの血とか痛みとかを吸い取って生まれた文化なんだなって。自分はそういう経験してないので分からないんですけど、100年前から大物のジャズの方達が歌い継いでいるものを自分も東京のちっちゃいライブハウスでですけど歌ってると、ジャズの歴史の中で自分もその中の一人として歌い継いでいけたらいいなっていうのを思ってて。通過点じゃないですけど、そこにいれたらいいなって。
──他のカルチャーへの関心はありますか?
彩菜 カルチャーを分けて考えるよりも自分が行ってみて楽しいなと思ったらそこで一緒に面白いことやってみるのも良いのかな。私も普段は生楽器と一緒にバンドでやってるんですけど、普段はヒップホップなアーティスト、ラッパーとかとトラックを作ってますって子にたまたま出会って。でもみんな結局音楽に対する思いは一緒で、自分が表現したい、かっこいいって思うものを作りたいっていうゴールは一緒で。そこが一致すればカルチャーとかジャンルはあんまり関係ないのかなって思います。ただジャズにいるからジャズのミュージシャンに声かけるんじゃなくて、自分がこの人良いってライブで思ったら、全然違うジャンルでもクロスオーバーさせられるのかなと思いますね。

──今後の目標や将来の夢を教えてください。
彩菜 最初はなんか日本語でポッピーな感じで年齢とかもすごい気にしてて、18のうちに売れなきゃいけないのかなとかって思ってたんですけど。そうじゃなくて、音楽を作って失敗しての繰り返しの中で本当にかっこいい音楽っていうか、自分の内側から出てくる本物だと思えるものにまず出会いたい、それを作りたいと思っていて。
日本だけに限らず、英語で歌詞書くことも多いので、国境関係なく音楽好きの人にこの人のやってる音楽かっこいいな、なんか刺さるな、すごい共鳴できるなって思ってもらうことがゴールですね。
将来の夢は日本だけじゃなくて世界の音楽的に信頼されてるフェスとかに出たいなと思うし、ヨーロッパとかのちっちゃいジャズライブハウスとかにも出たいなと思います。そういうのもすごい憧れますね。
自分と向き合い、本当にやりたいことを
──「かっこいい」や「憧れ」などの価値基準に対して「イケてる」という言葉をよく使いますが、Ayanaさんにとって「イケてる」とは?
彩菜 ギャップイヤーの時はこうなりたいっていう夢と時間しかなかったので、最初の方は結構何しようみたいな感じだったんですけど、ある日ここにも出てるDJでデザイナーの方に無駄な時間はないよって言ってもらって。それが心にすって入ってきてリラックスできた感じがして。この今の一年も無駄じゃないんだなって。
じゃあ何しようかなってなった時に自分とすごい向き合う時間になったのかなって思って。時間がある分将来何したいか考えたりとか、面白いと思った本読んでみたりとか。そうするとやっぱり自分を分かってると流されないっていうか。最近はどうしてもSNSで自分を発信して、外向きになってるじゃないですか。そうじゃなくて、自分は本当に何したいんだっけって中向きになってみるっていうか、自分と対話してみるみたいな。そうすると気づかないうちに自分がキラキラしてって、周りからあやなのやってることかっこいいねって言ってもらえて、ちょこっとずつ成長していくのかな。だからイケてるって本当に自分のやりたいことが分かってて、ちゃんと向き合えてて、毎日自問自答を繰り返しながら一瞬一瞬を爆発させてる人なのかなって思います。
──最後に、Ayanaさんにとってカルチャーとは?
彩菜 コロナ禍で思ったんですけど、アンダーグラウンドのクラブカルチャーも含めカルチャーって一番マニアックでオタクな世界じゃないですか。自分が好きなものって気づいたら無我夢中になってるから、気づいてみたらあんまり世間がついてきてなかったり。このクラブカルチャーも夜の街みたいな感じで結構批判されて、でもよく考えてみたら論理的じゃない。それでここもクラウドファウンディングを始めてなんとか店を繋いだり。文化とかカルチャーって自分たちで守って行かなきゃいけないんだなって。ここを愛する人たちがついてて、サポートしたいって人たちもいるので。
つまり、カルチャーって本当にそれを好きな人たちが支えているというか。カルチャーはこうです!日本文化はこうあるべき!日本の精神はこうあるべき!っていうよりも、そのまんま素の状態でみんながそれを好きで、支えられてるのがカルチャーなのかな。
──ありがとうございました。

取材 Tsukasa Yorozuya
構成 Tsukasa Yorozuya
撮影 Shun Kawahara, Charlie Ohno
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