イワネスインセイン Double Dutch Artist
Double Dutch Contest Japan 2013 U-19部門 優勝、Double Dutch Delight East 2018 一般部門 優勝、今年8月に行われるDouble Dutch Delight NEXT HEROES ではジャッジを担うなど、個人、チームともに結果を残し、独自の世界観でシーンにインパクトを与え続ける。各種SNSに加え、noteやSoundcloudも更新し、ラジオ「イワネスマサエンジン」のパーソナリティを務めるなど、表現者としても活躍が目覚ましい。
ありきたりな勝ちは求めない
──よろしくお願いします。初めに、自己紹介をお願いします。
イワネスインセイン(以下:イワネス) イワネスインセインと申します。活動としては、ダブルダッチを通して自己表現みたいなことをしていて、たまに大会出たり、という感じですね。プレイヤーというよりかは、アーティスト寄りだと思っています。
──具体的な活動としてはどういうものがあるんですか?
イワネス 今やってるのは、めちゃくちゃ動画を撮って、SNSに上げまくるぐらいしかやってないです。コロナで仕事が結構無くなってしまったので。あとはたまにレッスンをやったりとか、大会で呼ばれて審査したりとか、そんな感じですね。
──SNSに動画を上げるのは、どういう目的があるんですか?
イワネス やっぱり結局、見てくれる人が多い方が仕事になったり、繋がることも多いと思うので。こうして色々頑張ってやってたから、お声がけ頂くことも増えました。いろんな人に見てもらいたいっていうのがありますし、続けることに意味があるんだなと思いますね。
──では、ダブルダッチを始めたきっかけは?
イワネス 自分もともと運動神経超悪くて。ソフトボール投げ8mとか(笑)なんですけど、小1か小2ぐらいの時に父親が熱心に縄跳びだけ教えてくれて、たまたまクラスで1番ぐらい上手くなったんですね。それで「俺縄跳びは得意だな」っていう意識があって。それで、ダブルダッチの教室がたまたま近くにあったので、行ってみたらすごい楽しくてハマったのが最初のきっかけです。ちなみにその時の先生がASGRMっていうチームの、TKCさんで、その人がKATSU ONEさんとかと大学時代一緒にSTYLE VALE-TUDOとかやってた人です。僕はその人が今でもザ・ヒップホップって感じで1番かっこいいと思ってます。

初めは習い事的な感じで、そんなに真剣にやってなかったんですけど。中1の時ぐらいに、地域のお祭りみたいなのにでて、それがすごい楽しかったんですよ。人前でパフォーマンスをやって、大人たちがすごいすごいって言ってくれて、「めっちゃ気持ちいいじゃん、人前でやるの楽しいな」と思って、そこからのめり込んだって感じですね。
──イワネスさんの動画をたくさん見させてもらいましたが、ダブルダッチの大会で、他のチームは跳ぶ人と回す人を交代してる中、イワネスさんはずっと跳んでましたよね。
イワネス そうですね。基本的にチームって、ジャンパーとターナーが変わって、交互にやってくのが当たり前になってるんですけど、交代しなくてもいいんじゃないかって(笑) 俺1人でやり続ければいいっていうのを提案してくれた人がいて、確かにそれ面白いなと思って。大会が始まって本当に20年ぐらい経ちますけど、意外と今までいなかったので。
──当たり前のことかもしれないですけど、疲れるじゃないですか。
イワネス めっちゃ疲れます(笑)ひとりで2分ぐらい跳ぶっていうのは、絶対にありえないし無理だと思ってたんですけど、意外とできたんです。ダンスのソロとかだとあるじゃないですか、普通に1人で3分ぐらいやったりとか。すごく覚えているのが、自分が学生の時にみたTOKYO FOOTWORKZのSHUHOさんのジャッジムーブで。ダブルダッチのジャッジムーブって大体30秒ぐらいで終わるんですけど、SHUHOさんは2分ぐらいやってて、ちゃんとショーだったんですよ。で、「うわ、すげえ、 1人でこんな間持たせて、2分もやるんだ」みたいな。体力もすごいし、ちゃんと魅せものを持ってるのが超すごいなって思いました。
──なんで他のチームがやってないようなことをやろうという選択肢に?
イワネス 普通に勝っても面白くないというか、普通に勝つことに興味を持っていなくて。僕のダブルダッチをやってる友達もみんな結構上手いし、絶対僕もそういうチームに入れてっつってやったら、上位には入るんですけど、それ面白くないんで。勝ち負けはどうでもいいというか、勝ち負けより大事なことってあるなと思います。あんまりでかい口は叩けないですけど(笑)
──今のイワネスさんのスタイルは、オーソドックスな、例えばブレイクダンスを取り入れたものとは違うと思いますが、最初からずっとそうだったんですか?
イワネス いや、多分そうじゃなくて、ずっとグラデーションで今のスタイルになってると思います。さっきも言ったんですけど、1番最初に教えてくれた先生が、でかいジーパン履いて、NEW ERAかぶって、みたいな。ザ・ストリートな感じだったんですよ。僕もそういうのに憧れてた時期があったんですけど、やってくほどに、なんか違うかもなと思っていました。そういうゴリゴリなスタイルより、こういう感じの方が俺好きだな、と思って、本当にだんだんこうなっていった感じですね。僕はまだ変化の途中だと思うので、これからまた変わってくると思いますが。
──では活動の中で、特に転機になったポイントはなかったりしますか?
イワネス でもメモリアルな、エモーショナルモーメントは2つぐらいあります。一つは、大学生の時にサークルでチームを組んでいて、最初は世界―になるぞ、みたいな思いでやってたんですけど、途中からソロバトルに出る方が面白くなっちゃって、チーム結構おざなりにしちゃったんですよね。ソロの方はたまに小さいバトルとかで優勝できてたんで、そっちで完全に満たされて、チームの方では4年間本当に1個も結果を残せないで引退しちゃって、やりたいこと何もできなかったな、みたいな。それで「やばい、これ今死んだらまじ後悔するわ」と思って、組んだチームがCall me a DIVAっていう、自分以外が女の子のチームです。それでバキバキに変な方向に振ってショーをやったら、関東優勝できたので、「やりたいことやった方がいいじゃないかな」と思ったのが1つの転機。

もう1個は、そのチームでその関東大会優勝して、全国大会に行けたんですけど、2位だったんですよね。2位だったんですけど、完璧なパフォーマンスができたんです。そのパフォーマンスが終わった後に舞台袖でチームメイトと喜びを共有する瞬間、分かち合う瞬間が未だに忘れられなくて。やっぱりこれが一番嬉しいのかなって。結果とかよりも、やりたいパフォーマンスを本気でやり切って、仲間と喜びを分かち合う瞬間が僕の中で結構大事な瞬間で、転機かもしれないですね。
なぜダブルダッチなのか
──ダブルダッチの最大の魅力はなんだと思われますか?
イワネス それに関しては、自分で考えたりもするんですけど、答えがなくて、自分の中では。今僕はダブルダッチめちゃくちゃ好きだし、楽しんでるんですけど、その理由なんだろうなって思ったら、まず得意なので。そりゃ得意なものをやってたら楽しいだろ。で、なんで得意かってなったら、環境がよかったんですよね。教えてくれる人が一流で、かつ僕が始めた時って、子供のシーンが全然なくて、めちゃくちゃちやほやされたんですよ。その状態だったら、僕じゃなくても絶対楽しいでしょ、って思うので、何が魅力なのかって聞かれると、めちゃくちゃ難しくて…そこはなんか、惑ってますね。答えはいつか見つけたいです。
──珍しい考え方ですね。
イワネス そりゃ本気で10年とかやったら、絶対なんでも楽しいじゃないですか。辛いこともあるけど、いつかすごく上手くなって褒められるようになって、楽しくなると思います。ダブルダッチが他のものに劣ってるとは言わないですけど、勝ってるとも思ってなくて。なんでも本気でやったら絶対楽しい。それがたまたま、僕はダブルダッチだったんだなと思うので、何が魅力って言われると難しいです。ただよく言われてるのは、チームワークが大事なことと、ミスがすごくわかりやすいので、スリルがある。歌やダンスと違って、ダブルダッチは素人が見ても、一瞬でわかるんですよ、「はい、ひっかかりましたね」って。そこが分かりやすく面白いと思います。逆に難しい技をした時の、「今のひっかからないでできるんや」ってのは、客観的にみた時に、魅力の1つだと思いますね。ただ自分の中ではそれが1番じゃないなと思っていて、自分の中の、なんでダブルダッチに心を奪われているかはまだ答えが見つからないので、探している途中です。
──今のダブルダッチシーンに対して何か思ってることは?
イワネス ブレイクダンスが多いっていうのは僕もすごい思っています。ブレイクだったりスワッグっぽいヒップホップをやっている人が多くて、それを否定はしないんですけど、自分はそういうマッシブな雰囲気じゃないので。俺が例えばダブルダッチ知らなくて、そういう人たちばっかりいたとしたら、「うわちょっと怖えよ、やりたくない」って思っちゃうと思います。自分みたいな、ちょっとなだらかなスタイルの人がいたら、「あ、こういう緩やかなタイプの人もいるんだ。じゃあ僕私できるかな」って思ってくれるかなと。それが自分の続けてて、大会とか出てる理由の1つです。そういう陰キャも辞めないでほしい(笑)
──間口を広げるような感じ?
イワネス そうですね。結構トップにいる人達が、体育会系でバキバキ、みたいな人が多いので。そうじゃない人でもよくない?っていう問題提起でもあります。例えばアニソンでやるクルーとかももっとできて欲しいなと思いますし、もっと幅広くなって欲しいですね。やってる人のキャラクターというか。ストリート!みたいな感じの人がやっぱり多いので、「いや、僕渋谷とか行かないです、下北沢です」みたいな人が増えてもいいかなと思います。
──他にダブルダッチのシーン対して、何か物申したいことはありますか?
イワネス 一個言えるのは、ダブルダッチは1人じゃできないので、良くも悪くも繋がりが強くて、仲良いんですよね、社会が。本当にそれこそ今一番有名なREGSTYLEっていうプロの人たちとかも、代々木公園で練習して、全然下手な学生とセッションとかしてるので。それぐらいフランクで、みんなで頑張ろう、みたいな空気があって。それはすごくいいことなんですけど、それがある分バチバチ感があんまりないというか。他のスポーツとか、ダンスもそうですけど、いきなり15歳ぐらいのやつが優勝したりするじゃないですか。ダブルダッチはそういうのが無くて、年功序列感は強いんですよ。繋がりが強いがゆえに。そこはあんまり好きじゃないというか。年齢とか、どれだけやってたかとかじゃなくて、その瞬間上手いかだと思うので、それはすごく気になります。バトルでも別に上手くない社会人プレーヤーに対して、上手い若手の子がビビって負けちゃう、みたいな。もったいない、本気でちゃんと実力出したらお前の方が上手いのに、と思いますね。繋がりが強いことはいいことなんですけど、縦社会は無くなっていいと思います。
──活動を通して、学んだこと、大事だなと思ったことは?
イワネス ベタですけど、感謝することは学びですね。ありがとうとごめんなさいをちゃんと言う。パフォーマンスを作ったりして、人間関係を潤滑にする上で絶対大事なんだなと思います。ちゃんとお互いを認めて尊重し合うことを学びました。
──1人じゃできないですもんね。
イワネス そうなんですよ、それがいいところでもあり、悪いとこでもあるんですけど。ダブルダッチを通じて人間性がよくなって、成長できたっていう人は多いです。最初始めた頃は自分のやりたいことだけやって、チームメイトがミスするとブチギレたり。そういう人も、最後の方にはお互いのこと尊重し合えるようになるとか。逆にそういうのが無い人は、ダブルダッチ続けられなかったりします。
インプットを個性に
──これからの展望としては?
イワネス なるようになるかな、と思うところはあって、あんまりこうなろうと思って、こうなったって訳じゃなくて。その時々でいいなって思ったことを取り入れていく、みたいな。柄シャツ着るようになったのも、大学生のとき古着屋に行って、「あ、似合うじゃん」って感じで着るようになったので。いろんなものを吸収して、それを還元してく。なので何になるか分かんないですね、自分も(笑)
──では他のカルチャーにも興味があったり?
イワネス そうですね、音楽聴いたりとか本読んだりとかしてます。インプットってやっぱり大事だなと思います。
──noteを頻繁に投稿されていると思いますが、それはダブルダッチアーティストしてというよりは、表現者として書かれている感じ?
イワネス そうですね、ダブルダッチにこだわりたくないっていうのはありますね。ダブルダッチしかやってなかったんで。本当に僕、人より得意なことは、ダブルダッチと、好きなアニメのけいおん!のイントロクイズぐらいしかなくて。それだったらまじで誰よりも強い自信あるんですけど。高校時代1人でやってたぐらいなので(笑)でもまあ、文字書くの結構好きなので、書いてみようかなって。今は習慣というか、楽しさが故で書いてます。
──何かを届けたいというよりは、自己満足?
イワネス そうですね、整理するというか、発散したいみたいな感じですね。文章書くのも、考えるのもすごい好きで、というか悩んじゃうタイプなんですよね。パーソナルな話なんですけど、はじめて彼女ができた時、最初はめっちゃ好きだったんですけど、3ヶ月ぐらいした時に、「あれなんで俺好きなんだっけ」ってシャンプーしながらすごい悩んじゃったことがあったんですよ。とか、好きなアニメ何周か観たあとに、「いや待てよ、何が面白いんだこの作品」と思って、ドツボにハマっちゃって。色々考えて、こことここが俺の心を掴んで離さないんだ、って答えが出たんですけど。ダブルダッチに関してはまだわかんないです。
──服装や髪型にもなにかこだわりが?
イワネス なんでこうなったんでしょうね、それは僕もわかんないです(笑)でもやっぱり女の子に間違われるのが多いです。例えば親戚のおじさんとかも、「女の子じゃないの?」みたいないじりをしてくる人で、それが結構嫌で。別にいいじゃん、みたいな。女じゃないし、女とか男じゃなくて俺じゃん、みたいな。まあそのジェンダーレスっぽい方が合うし、自分らしいなと思って、こうなってる感じですね。
──大切にしてる価値観や座右の銘はありますか?
イワネス 僕『攻殻機動隊』がすごい好きなんですけど、押井守さんが言ってた言葉で、「1万人が1回観る映画より100人がいっぱいみる映画が僕は撮りたい」っていうのがあって。すごいその価値観と思って、共感したんですね。それこそけいおん!の話じゃないですけど、いろんなアニメを観るより、ハマったアニメを10回とか観ちゃうタイプ。なので、ダブルダッチのスタイルも、みんなが好きなものじゃなくて、ひとりだけが何百回も見るものができたらいいなと思ってます。座右の銘というか、すごく影響を受けた言葉です。

──人生の中で心に残った1曲は?
イワネス かっこつけたらハウスの良い曲とかあるんですけど、でも1番聴いたなと思うのは、けいおん!の2期の1番最初のエンディングの『Listen!!』っていう曲で、めちゃくちゃ好きで、普通に音楽として良いし、歌詞も好きだし。「今日死んでも構わないってくらい全力で生きたい」みたいな。それが多分なんだかんだ10代20代で1番聴いた曲だと思いますね。
──次に、あなたにとってイケてるとは?
イワネス 僕にとってイケてるっていうのは、自分を理解して、自分らしくいることだと思います。やっぱ結局、さっきも話したんですけど、人のマネだとつまんないじゃないですか。自分の心の奥底をしっかり見ようとして、それを開示している人みたいなのがやっぱ魅力的かなと思ってます。結果的に人に似ちゃってても、それが本当にその人の心の底にあるものだったら輝くと思うし。逆にすごい変なことしてても、やりたくないことだったら多分それってつまんないものだと思います。例えばSEO対策バッチリの記事よりは、ぐちゃぐちゃだけどやりたいことを出してる方が、イケてると僕は思っています。
──ありがとうございます。イワネスさんらしい答えですね。最後に、あなたにとってカルチャーとは何ですか。
イワネス これ難しいですけど、ダブルダッチじゃなくても、カルチャーは生態系みたいな、ぐちゃぐちゃになっていて綺麗じゃないものだと思うんですよ。いろんな人がいて、当初こうなろうと思って、計画がぐちゃぐちゃになって、でもなんか1本の幹が伸びていくみたいな。計画通りに行かなくて、歪になっていって、でもそれが結果美しい。っていうのが文化、カルチャーなのかなと僕は思いますね。
取材 Tsukasa Yorozuya
構成 Kiriko Fukutome
撮影 Shun Kawahara , Shotaro Charlie Ohno, Keisuke Minami, Ryo Mizuguchi