【PERSONAL FILE】Illustrator Shinya Ogiwara 自分らしく生きるために描く

【インタビュー】 Shinya Ogiwara
 メッセージ性のある作品が20代を中心に反響を呼ぶIllustrator。 スケートボードや音楽などの、自身のライフスタイルからインスピレーションを受けたものを作品として表現している。
 2019年から創作活動を開始し、わずか1年で表参道のbaggage cafemarketでの個展、渋谷TSUTAYAでのPOPUPを開催。
 カフェのウォールアートやアパレルデザインなど、東京を拠点に活動の幅を広げており、現在浅草のThe Day East Tokyoで開催中の個展では、初日から半数以上の原画が完売し、反響を呼んでいる。


絵を描くことで自分に正直になれる


──自己紹介をお願いします。

Shinya Shinya Ogiwaraです。東京でイラストレーターとして活動している23歳です。絵を描いて、個展をやったり、SNSに絵を投稿していったり、お仕事もらってデザインをしたりとか。そういうことを今やっています。

 ──イラストレーターとして活動し始めたのはいつから?

Shinya イラストレーターとして活動し始めたのは去年の3月ですね。

 ──始めたきっかけを教えてください。

Shinya ちょうど僕が大学4年の3月で卒論を書く時期だったんですけど、卒論を書くのがすごく嫌で。大学のパソコンをいじっていたら、Illustratorっていうアプリが無料で使えることに気づいたんですよ。それをいじって落書きしていたのがきっかけです。

 ──描くこととか、表現活動はもともと好きだったんですか?

Shinya スケートボードやってたりとか、音楽聴くのが好きだったので、表現をするっていうことをしてみたいなって憧れはあったんですけど、全然やったことはなかったです。幼い頃、落書きはすごく好きで描いてはいたんですけど、それ以外は全然やってなかったです。

 ──始めてみたら手応えがあったんですか?

Shinya 最初はみてもらおうとまでは全然思っていなくて、写真を絵にしていただけでした。でも、人からInstagramでいいねをもらったりとか、メッセージをもらったりするのが嬉しくて、ただ暇つぶしにやってました。

 ──Instagramに作品を載せていますよね。

Shinya そうですね。模写していた時代の作品も一応残しているので、残すようにしています。「絵を始めたいけど何をしたらいいかわからない」というようなメッセージをくれる人がいるんですよ。僕って絵を描くのが上手いって思うかもしれないけど、最初はそこまで上手くなかったんだよっていう過程を見れるようにした方が、これから何かやりたいっていう人が始めるきっかけになりやすいんじゃないかなと思うんですよね。

 ──活動の中で得た学びはありますか?

Shinya 絵を描くことが自分らしく生きるための方法だと捉えるようになりました。絵とかイラストとかって多くの人にとってはなくても生きていけるものです。でも、僕にとっては、人の目を気にせず自分の内側にあるものを正直に表現できる場があることによって、普段から人の目を気にせず、自分に正直にいられるようになったと思います。

 ──ご自身がやられてたスケートボードでもそういった考え方はありましたか?

Shinya スケートボードは仲間から影響を受けることがすごくあるなと思っています。たしかにスケボーをやっている人は傍らで音楽をやっていたりとか服を作っていたりとか、そういう創作活動が好きな人が多いです。あとはやっぱりスケートボード自体がすごく自由で。決まりがなくて、それぞれが自分の滑りのスタイルを持っていてすごく素敵だし、刺激になるなと思っています。それは、やっぱり自分の作品や作ることに影響を与えていると思っています。

 ──その他に影響を受けたコンテンツはありますか?

Shinya  80年代、90年代のアニメが好きなので、作風はエヴァンゲリオンとかAKIRAとか。特に色の塗り方はすごく影響を受けてます。あの時代って、今にはないようなビビットな感じの色をたくさん使っていて、明るいところと暗いところのコントラストが激しい日本独特の色の使い方をしていると思うんです。そこがすごく好きで影響を受けてますね。僕の絵って、アメリカンなテーマが多いんですけど、色の塗り方が日本っぽいので、外国人が見るとなんか日本っぽいねって言われることも多いんです。一方で日本人が見ると外国っぽい絵だなと思うんで、そこの違いも面白いなと思いますね。

 ──アニメ作品を観る時にストーリーよりも絵にフォーカスするんですね。

Shinya そうですね。やっぱり人と違うものを作りたいとか、人からこの絵すごいって言われるもの作りたいっていう気持ちは常にあるので、映画とかアニメを観るときもアングルの使い方を参考にしていますね。日常のシーンを描く時でも、アングルが一つ違うだけで、どっちの感情に寄った切り取り方をしているのかが大きく変わるので。描き始めてからは特に意識するようになりました。


「打算的にならない」ということ


 ──大切している価値観はありますか?

Shinya 打算的にならないことっていうのをすごく考えています。例えば「こういうことすれば売れるんじゃないか」とか「こういうことすればみてくれる人が増えるんじゃないか」みたいな、そういうことをあんまり考えないようにしようと。それよりも、自分自身がこういう絵を描きたいとか、自分の内側にあるものに正直な表現をしようと思っていますね。絵にメッセージを込めているのもそこが理由で。自分の日常から考えたメッセージを作品に落とすことで、それ自体が唯一無二な表現になるんじゃないかなと思っています。

 ──売れる事や人気よりも、打算的にならないことにこだわる理由は?

Shinya もちろん、僕も一時期はフォロワー増やすにはとか、みてくれる人を増やすにはどうすればいいだろうということばかり考えてた時期はありました。でもそれによって知ってくれた人たちって、本当に自分の見て欲しいところを見てはくれてないなと思っています。絵をパッとみて、かわいいとか、オシャレだなとか、表面的な部分でしかみてもらえなくて。でもそうじゃなくて、密に繋がった人とか自分のことを本当に知ってくれている人は、絵に込めた意味やメッセージまで深くみてくれるなと。そういう人を増やすには、やっぱり自分の内側にあるものに向き合って、それを表現することを大事にするべきだなと思います。

 ──そのメッセージはどのように決めていますか?

Shinya 決めるタイミングは2つパターンがあります。1つは、メッセージが既にあってこういう作品を作りたいというものを絵に落とし込むパターン。もう1つは、絵からメッセージが浮かんでくるパターンです。

 ──メッセージから浮かぶ時って、フッと浮かんでくるのか、それとも何かにインスパイアされるんですか?

Shinya 自分の日常からということがすごく多いです。例えば、友達の恋愛相談を受けるときの内容から浮かんだり。最近だと、本当はゴールデンウィークに個展がやりたかったんですけど中止になった一方で、社会では路上で飲んだりしている人が多いという状況から生まれたり。自分の身の回りで起きていることからアイデアが浮かぶことが多いです。

 ──メッセージはShinya Ogiwaraさんの心の叫びや想いなんですね。

Shinya そうですね。誰かに伝えたいっていうよりも、本当に自分自身のために描いていることが多いです。社会人一年目の頃に描いた絵もあって、それは入社したてで周りと比べて自分を測るようになって、会社で働くのがしんどくなった時期で。でもやっぱり自分の価値は自分で決めていいし、比べなくても良さがあるはずだよね、みたいなことを自分に向けて伝えたいと思って絵にしたこともあります。薔薇の描いてある絵がそれですね。

 ──カルチャーで生きていくのが難しい中、就職と描くことを両立しているShinya Ogiwaraさんに、キャリアについての考え方もお伺いしたいです。

Shinya 絵を描き始めたのは就活が終わってからだったんですけど、なんで会社辞めないのかっていうと、芸術とか、何か表現することって、お金の価値に完全に代替しきれないと思ってるからです。有名な人の個展に行くと絵が何十万、何百万円で売られている一方で、趣味で絵を描いていてInstagramのフォロワーも少ないけどめちゃめちゃ良い表現をする人もちろんいて。そうしたときに、こっちの人が何十万円で売れるから良い絵を描いていて、こっちの人はフォロワーが少ないから悪いかって言ったら絶対そうじゃないなと。それぞれ良い表現なのにそこに差があるのって、結局大きいところと仕事をして多くの人の目に止まったかどうかっていう歪んだ測り方があると思うんです。絵って、やっぱりお金とイコールで価値を交換できない。でも、自分が絵で生きていこうってなったら、今作っている作品を売るためにどうすれば良いかを考えちゃうようになると思うんですよ。だってそれをしないと生活ができなくなっちゃうから。となると、さっき言った打算的に絵を売ろうとするようになって自分の表現が売るための表現になるなと思って。自分の生活がどうとか、お金を稼げるかどうかという歪みなく、日常から起きたことを正直に表現するためには、自分は働きながらだと思っています。

 ──大切な価値観を守るための選択だったんですね。

Shinya そうですね。あとは会社だと、全然違う価値観の人と付き合える場が勝手に生まれる。そういうときに感情が揺れ動くことがすごく多くて、絵のアイデアが浮かぶ幅、インスピレーションの幅が増えるという点もプラスに捉えています。カルチャーで生きていくと、本当に似たことが好きな人同士と深く長く付き合うことが多いと思うんですよ。それだとインスピレーションの幅が固定化しちゃう気がして。


絵は翻訳者になれる


 ──今後の展望について教えてください。

Shinya 人の心の中に生き続ける作品を作りたいと思っています。大きいところと仕事をしたとか、それによって自分の実績がどうなったとかそういうのではなくて。僕が作品を作り続ける中で、絵が心に響いて気持ちが前向きになれたと思ってくれる人が1人でも多く増えたらいいなと思いますね。やっぱり生で作品に触れてもらってメッセージと向き合ってもらえるとそれも伝わりやすいと思っているので、SNSだけじゃなくて個展にも来て欲しいなってめちゃめちゃ思っています。

 ──人生の中で一番心に残っている一曲を教えてください。

Shinya ずっと影響を受けているというか、好きなアーティストはラッパーのKID FRESINOさんです。みんな好きですよね(笑)実際に僕の絵でもKID FRESINOさんの最近出したアルバムの『incident』っていう曲のリリックが作品になっているものもあります。“i feel like i’m 18” っていうリリックがあるんですけど、めっちゃいい言葉だと思ってそれをもうそのまま絵にしていて。特にその一曲は自分の中で今も残っていますね。
 KID FRESINOさんはHIPHOPというジャンルに縛られないで、アルバムを出すごとに全く違った側面というか、全く違った表現をしていてカッコいいなと思います。HIPHOPはこうあるべきだとかそういうものに縛られず、常に新しさを追求している感じがアーティストとしてカッコいい。肩書きでやるべきことを制限する部分って絵の活動でもあるんですけど、あまり好きじゃないので僕も肩書きに縛られず新しい表現をするっていうのは、KID FRESINOさんみたいに追求していきたいなと思いますね。

 ──Shinya Ogiwaraさんにとって「イケてる」とは?

Shinya こだわりとか信念があるものだと思います。自分はこういうものをやりたいんだとか、こういう表現がしたいんだっていうこだわりを持っていて、それを常に磨こうとしている人、それを正直に妥協せずに表現している人かな。そういうのはイケてるなと思いますね。

 ──最後にShinya Ogiwaraさんにとってカルチャーとは?

Shinya 人と人とを深く繋げるものでもあって、でもその一方で人と人とを傷つけ合うもの。というのも、何かのカルチャーを支持していてそれを表明することって、すごく深いところで繋がれるじゃないですか。共通する話題も多い。それってめちゃめちゃ良いことだし、すごく幸せな楽しいことだなと思います。でも何かを支持することって、それによって対極の考えを持つ人を退ける一面もあって。退けた溝が深ければ深いほど、人と人とが傷つけ合うし、そうでなくても退け合う人同士のコミュニケーションがなくなるということがあるなと思いますね。そんな中で、絵は翻訳者になることができるのかなと思っています。カルチャーとしては対極にあるもの同士が、この絵を好きっていう部分で共通になったりして。そこで繋がって対話が生まれれば、その溝がなくなることはないけど、少なくなる。支持しているカルチャーとは別のところで共通した話題ができるのかなと思うから、そういう意味を持てるといいんじゃないかなって、思いました。

 ──ありがとうございました。

取材 Tsukasa Yorozuya
構成 Tsukasa Yorozuya
撮影 Shun Kawahara , Nozomi Tanaka

[Shooting Place]
The Day East Tokyo
TEL 03-6802-7437
住所 東京都台東区花川戸1-13-3
営業時間 月〜金  ランチ  11:30-14:00
          ディナー 17:00-24:00​
     土   12:00-24:00
     日   12:00-22:00
Official HP https://www.theday.beer/

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