【東京万求録】Vol.6 DAVIDE Coffee Stop, Vintage Storage

【東京万求録】とうきょう-ばんきゅうろく
「未来の行きつけ」をコンセプトに若者に利用して欲しいイケてるお店を紹介する企画。お店のオーナーにお店のこだわりだけでなく、自身の生き方や価値観などをインタビューすることでより深い魅力を引き出す。

Vol.6 DAVIDE Coffee Stop, Vintage Storage
目を引くネオンの明かりにカラフルな色遣い、オーナーの松下さんのこだわりが細部まで施され、まるで映画のセットのような内装のカフェ。地下のスペースには古着屋が併設されており、まるで古着倉庫のように古着が所狭しと並べられている。オーナーの意向により場所は伏せられているが、都内某所に確かに存在する知る人ぞ知るお店である。

 ──はじめに自己紹介をお願いします。

松下 DAVIDE Coffee Stopの松下大介です。よろしくお願いします。

 ──どういったお店か教えてください。

松下 何も難しい事はないです。コーヒーショップです。元々は機械を使って落とすエスプレッソが売りのコーヒーショップでしたが、最近はスタッフも入って、去年くらいから色んな飲み方ができるような感じのコーヒーショップをやっています。

 ──それまではお一人で経営されていたのでしょうか?

松下 そうですね。丸5年間一人でした。

 ──お店自体を立ち上げた経緯を教えてください。

松下 正直、お店を作ろうと思って作ったわけじゃないんですよ。独立願望はあったんですけど、具体的に「いつ独立したい」とか、そういう夢みたいなものは実はそんなに持っていませんでした。
このお店を立ち上げる前まではずっと勤めでやってきていて、最後に勤めたのが千駄ヶ谷のRon Hermanっていうアパレルのブランドのカフェでした。そこの立ち上げを依頼された流れで、3年務めた後、辞めました。そこからどうしようと思っていた時に、税理士やっていたり、家業を継いで自分で舵取りながらやっている同級生と新年会で集まって、そういう連中にもう勤めるのをやめて自分でお店始めなよって言われたんですよ。税理士の友達なんて独立するときの流れを居酒屋のレシートみたいな紙に書いて渡してくれて、その7行くらい書いてある紙を見ながら書いてある項目通りにやったら、このお店ができちゃったの(笑)お店を立ち上げるのに1,000万くらいかかるから、国からちゃんと事業融資を受けてお金を借りてやらなきゃいけなかったし、厳しいかなと思っていたんだけど、申し込んでみたら融資も通って、とんとん拍子でこのお店が立ち上がりました。

 ──DAVIDE Vintage Storageも同じタイミングで始めたのでしょうか?

松下 DAVIDE Vintage Storageは2019年の10月にオープンしました。それまでここの地下スペースはレンタルスペースみたいな感じで使っていました。物作りをやっている友人が多いので、たまにその仲間たちに期間限定のポップアップショップやってもらったりとか、そういう場所として活用してもらっていました。だけど、もともとアパレルで働いていたうちの妻が会社を辞めるという話になって、「じゃあ二人で古着屋始めよう」ってなって、地下のスペースを古着屋として使うことにしました。

 ──では今奥さんもこちらで働いていらっしゃいますか?

松下 実は古着屋を始めるタイミングでちょうど身篭って、去年出産したんですよ。だから結局現場に立ったのは数カ月で、その後産休に入ってしまいました。それが去年の1月くらいで、さすがに1人でお店回すのが厳しくなって、1人従業員を雇って今は2人でやっています。

 ──DAVIDE Coffee Stop、DAVIDE Vintage Storageという店名に込めた意味や思いを教えてください。

松下 「Coffee Stop」という屋号をずっと使いたくて。バス停って英語でBus Stopと言うじゃないですか。アメリカのバス停って知らない人同士が普通に会話しながらバスを待っているような場所なんですよ。だからこのお店もそういう場所になったら良いなという意味合いも込めてCoffee Stopって屋号をつけました。
DAVIDEというのは僕のあだ名です。昔僕が働いていたお店が、もうなくなってしまったけど、代官山の大きいテラスのある立派なレストランスタイルのお店だったんですよ。そこのシェフがイタリア人で、仕事中日本語を一切使っちゃいけない、イタリア語で注文飛ばしたり、会話をしなきゃいけないっていう決まりがあるお店でした。そのイタリア人のシェフが僕につけたあだ名が「DAVIDE」で、その会社を辞めて別の会社に入ってコーヒーの仕事をするようになってからもずっとDAVIDEって呼ばれ続けて、気づいたらその名前で呼ばれることが心地よくなってきて。店名もDAVIDEでいいかなって思って付けました。
Vintage Storageは穴掘って作ったような空間の中に古着が所狭しと並んでいるヴィンテージの倉庫みたいなイメージですね。

 ──以前働いていたイタリアンではどのようなお仕事をされていらっしゃいましたか?

松下 そこがコーヒーと出会った場所ですね。それまでは、六本木のスポーツカフェとか、クラブでバーテンの仕事していました。でも途中で夜に働くのがしんどくなって、昼間でカウンターに立てる仕事を探していたら、さっき言った代官山のイタリアンで二番手のシェフやっていた地元の先輩に「うちの店でバリスタの仕事やらないか」と誘われて。その時はバリスタが何かも知らなかったんですけど、機械を使ってコーヒーを淹れる仕事だと教えてもらって、じゃあやってみようかなと思ってそのレストランに入店して、DAVIDEって名前でバリスタとして働き始めました。

 ──なるほど。ありがとうございます。次にこの場所を選んだ理由を教えてください。

松下 正直、この入谷という土地にゆかりはそんなにないんですよ。だけど、日比谷線の入谷から2駅行ったところに仲御徒町という駅があって、そこが僕の地元なんです。最初は地元の近所でお店開くことも考えたんだけど、あんまり地元過ぎると近隣の仲良い友達とかが寝巻きとかで来るようなお店になる気がして、そういうお店にはしたくなかったので、そこからひと距離置いた場所で探して出てきたこの物件にしました。

ここを見つけられたのも偶然でしたね。まず天井が高いところがい良いなと思って、実際に管理会社に電話して内見させてもらったら、なんとこんな地下室までついていて、それ見た瞬間にここだと思って即契約しました。

 ──地下室の壁などの内装もご自身でリフォームされたのでしょうか?

松下 そうですね。元々縦横全部コンクリートの壁に囲まれていたんですけど、もうちょっと色味が欲しい、カクカクしているから角ももう少し丸めたい、と思ったので全部左官してもらって、自分たちで上から色を塗りました。借りている物件にこんなことやっちゃっていいのかなとも思ったんだけどね。まぁやっちゃったけど(笑)

 ──このお店のこだわりを教えてください。

松下 こだわりというか、せっかく自分でお金借りてまでお店作るんだったら絶対に他にはないお店を作りたいという思いだけでこのお店は作りましたね。

 ──お店のコンセプトはありますか?

松下 細かくは説明しづらいんだけど、映画のセットみたいな。言ってしまえばディズニーランドみたいな。そういう特別感のある箱にしたいっていう想いはありましたね。

 ──お店のことを拡散し過ぎたくないという話を伺ったのですが、何故でしょうか?

松下 例えば、ご自身がお店を営業していたとして、一万人相手に商売できますか?

 ──難しいですね。

松下 難しいですよね。じゃあ100人だったら?できるかもしれないよね。そういうことです。カフェは特に受け口が広いと思うんですよ。でも、例えば古着屋ってなるとお客さんはヴィンテージが好きな人、古着が好きな人という感じで受け口が一気に絞られるじゃないですか。僕はそういうお店をやりたいんですよね。もちろん沢山の人を相手にコーヒーを売る、古着を売る、それも大事だとは思うんですけど、自分自身がこの先10年20年お店を続けていくと考えたら、受け口が広すぎるといつか疲れてしまうと思うんです。だから僕はできるだけ狭い幅でお店をやりたいなと思っていますね。

 ──カフェだけではなく古着屋を始めたのはそういった思いも関係しているのでしょうか?

松下 そうですね。アパレルショップがちょっと色気を出してコーヒーショップを併設するという話はよく聞くと思うんだけど、コーヒーを軸にやってきたカフェが古着屋を始めるって意外と稀なケースだから、古着屋を始めることで今までとはお客さんの質というか、お客さんのタイプが変わってくるのかなと思ったので、そういう一歩として自分がチョイスしたのがヴィンテージショップだったんですよね。実際に古着屋を始めることで、だんだんヴィンテージのお店目当てのお客さんが来るようになりました。

古着屋を選んだ理由は、古着が昔から大好きで、中学生くらいの時からお年玉持っては原宿の古着屋に自分が持ってるお金で買えるヴィンテージを買いに行ったりしていたくらいなので、逆に古着くらいしかなかったからです。

 ──コーヒーに関しては何かこだわりはありますか?

松下 やっぱりエスプレッソですかね。機械を使って落とす少量の液体ですけど、エスプレッソにはすごいこだわりを持っているつもりです。レシピとか抽出時間とかが他の店と全然違うんですよ。コーヒー業界でコーヒーの勉強をしている人たちがうちにきて僕のコーヒーの落とし方見るとみんな「これで大丈夫なんですか?」ってびっくりするんですよ。大丈夫も何もね、これを飲んでみればわかりますよ(笑)

 ──そのコーヒーの落とし方は独学で勉強されたのですか?

松下 最初はベーシックから学びました。スペシャリティコーヒー協会のセミナーに行って教わったりしながら学んでみたけど、だんだん自分のやり方を考えるようになって、試行錯誤しながら今のやり方に辿り着いた感じです。

 ──ありがとうございます。次は今まで触れてきたカルチャーについて教えてください。

松下 まず何よりも人に触れてきました。自然にも触れてきましたね。あとは海外に興味があって、ワーキングホリデーでカナダに数年住んでいたこともあります。

それ以外で触れているカルチャーは横ノリ系ですかね。カナダを選んだのもずっとスノーボードをやっていたという理由もあります。10年くらい前まではずっと滑っていましたね。そういう所で色んな人と知り合って、意外とその中に飲食やっている人もいたりとかして新しい繋がりもできました。

主に触れてきたものはそういうスノーボードカルチャー、古着、あとはやっぱり食文化ですかね。

 ──何よりも人に触れてきたのは何故でしょうか?

松下 何事も人なくして絶対に成り立たないじゃないですか。スノーボードもスキー場を滑るんじゃなくて、山の中に入って、登って、滑って降りてくるということをしていたんですよ。そうなると一人では絶対にいけないんですよ。自分がもし雪崩で埋まってしまったらそれを掘りだしてくれる仲間が必要ですから。

飲食はもちろんお客さんがいなければ成立しません。1人でコーヒー落としているだけでは成り立ちませんから。古着もそうだよね。だから何よりも人に触れることを大切にしています。

 ──今まで触れてきた音楽について教えてください。

松下 音楽は昔から兄の影響でロックが好きでした。あとはあまり大きい声では言えないですけど、ちょこちょこDJもやっていて、DJやる時とかはダンスミュージックとかハウスとかテクノとか流すので、そういう音楽は全て好きです。最近聴いているのはアフリカとかのちょっと古めのファンクとか、アフロとかです。ブラックミュージックの原点が少し話題になっていると思うんですけど、そういう音楽を掘るのが楽しいですね。

 ──触れてきたカルチャーとお店のコンセプトに繋がりはありますか?

松下 メキシコとかカリフォルニアが好きだからお店のデザインもそういうテイストにしています。お客さんの中には、アメリカっぽいという人もいればメキシコっぽいという人もいるけど正解は決めていません。捉え方は人それぞれだし、どっちでも良いかなと思います。だからメキシコって言われたら「はい、メキシコです」って言っちゃうし、カリフォルニアですかって言われたら「カリフォルニアです」って言っちゃいます。

お客さんの中には、イタリアですか?と聞いてくる人もいたりして、まぁイタリアはイメージしていないんだけどね。でもそうやって来てくれたお客さんがこの空間でイメージを膨らませてくれて、僕に聞いてきてくれたりする方がそこから色んな会話に繋がるし、面白いかなと思います。

 ──お客さんにとってどういうお店でありたいと思っていますか?

松下 特別な場所というよりは、ふとした時にちょっと一息つけるような。1,2時間とか長居して話してじゃなくて、ちょっと時間が空いて、たまたま近くにいるから、じゃああそこでお茶して行こうかって、ふと思い立った時にコーヒー飲みに来てもらえる場所であればいいかなと思っています。

 ──ありがとうございます。では次に飲食業界に興味を持ったきっかけを教えてください。

松下 初めてのバイトが飲食店でした。中学校の理科の先生がやっていた浅草のお好み焼き屋を手伝わせてもらっていたんですよ。本当はバイトするのは禁止だったし、今だったら大問題になるけど、「バイトしたい」と言ったら、9時までという条件付きで許可してくれたので、そこでバイト始めました。夜ご飯も食べさせてもらっていましたね。

 ──そこから飲食業界に興味を持つようになったのでしょうか?

松下 そうですね。そのあとは他の業種のバイトも色々やったけど、結局学生時代にやったバイトのほとんどが飲食関係の仕事だったし、やっていくうちに飲食が一番しっくりきたというか、続けられる仕事だなと思うようになりました。

 ──古着にはまったきっかけを教えてください。

松下 僕が中学1年くらいの時にLevi’s501がすごい流行って、アメ横でよく新品が売っていたんですよ。当時新品で5・6,000円くらいだったかな。でもアメ横の古着屋に行くと同じ501のUSA製のものがその当時まだ3,800円とかで買えたんですよ。

で、友達がみんな新品の真っ紺のやつを履いているのを見て、俺は新品よりこっちが良いと思って、古着屋さんに行って古着の501を買ったのが始まりです。

そこから古着屋の店員さんたちから「501でも例えば20年くらい前のこういうのもあるよ」とか、「年代によっていろいろなタイプがあるよ」とか教えてもらうようになって、ちょっと値段が高くても買ったりするようになりました。例えば、66モデルと呼ばれる有名な型があって、今だと10万くらいするんだけど、その当時は501の新品と同じくらいの値段で買えていた時代なんですよね。少し高かったけど、中学1年でそのLevi’sの66モデルを買ったりしましたね。

周りは新品の501履いている中で、自分は違うという優越感もあったりしてそこからどんどん古着にハマっていって、でも中学生だからそんなお金持ってないじゃないですか。だから僕は中学3年でバイト始めちゃったんですよ(笑)稼いだお金持って原宿にジーパン買いに行ったりしていましたね。

 ──お店をやる上で、生きる上で大切にしている軸や価値観を教えてください。

松下 最後に若い世代に向けてのメッセージで言おうと思っていたことなんだけど、結局自分と全く同じ人なんていないじゃないですか。だから、自分の意見をしっかり持った方が良いと思うし、すべての人が同じものを良いと思うかって言ったらそうじゃないし。自分なりの価値観っていうのはしっかり持った方が良いのかなと思います。どうしてもみんなが良いと言うものが正解とされてしまう世の中じゃないですか。でも何を良いと思うかなんて正解と不正解ってジャッジできるものじゃないし、人と違うから不正解とはならないと思います。周りの流行に左右されないよう、自分が良いと思うものは良いって思い続けることが大事かなと思いますね。

 ──ご自身も昔からその軸を大事にされてこられましたか?

松下 とは言っても若い頃は、みんなに合わせなくてはいけないのかなって思う瞬間もあったり、好きなものがみんなと違うと、どうしても仲間外れになったりしました。そんな葛藤もあったけど、自分の好きなこと貫いた結果、今こうして独立して、自分で色々やるようになったので良かったと思っています。人に言われたからじゃなく、全部自分で決めて行動するのが気持ち良いと思います。

 ──最後に若い世代に向けてメッセージをお願いします。

松下 なにより自分が感じたこと、思ったことを大事にしてもらいたいですね。もちろんたくさんの人が周りにいる中で、自分が左右されることもあると思うけど、ちょっとブレたりしながらでも良いから、最初に自分が思ったことや感じた事を大切にして欲しいと思います。

「周りの流行に左右されないよう自分が良いと思うものは良いと思い続けることが大事」と語るオーナー・松下さん自身がこれまで触れてきた食文化、古着、そして何より人の温かみを感じることができるお店。まるで日本ではないかのような雰囲気を味わうことができる色鮮やかなカフェと地下に掘った秘密基地のような古着屋を同時に味わうことができるこの空間に、来る客は童心を蘇らせ、妄想を膨ませる。松下さんの意向により今回お店の所在を明かすことはできないが、確かに存在するこの場所を是非探して、訪ねてみて欲しい。

取材・構成 Ryo Mizuguchi
撮影 Nozomi Tanaka

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