2020年夏にリーダー・Powerを中心にインターネットで出会ったメンバーで結成された気鋭のクルー。関東のリバーサイドにある一軒家で共同生活をしながらHipHopという枠にとらわれず、独創的な楽曲を生み出し続けている。2020年12月に1stシングル『BLOOM』を含む4曲をリリース。そして、今月14日に新曲『100%』をリリースした。ラッパーに限らず積極的に新メンバーを受け入れており、今後もメンバーを加えてクルーを拡大させていくという。今回のインタビューではPower、hanoi ShashiFrankhouse、Y ohtrixpointneverに、新メンバーのGenef、wasabiが加わり、それぞれの音楽に対する価値観や今後の展望を語ってくれた。





出会いは突然に
──まずどういったクルーなのかについて教えてください。
Power ヒップホップクルーですね。オルタナティヴヒップホップみたいなジャンルです。もっとヒップホップのジャンルをやっていきたいです。
──結成までの経緯は?
Power せーのっ、Tinder!これ言おうって決めてたんです(笑) SNSです。TwitterとかInstagramとか、色々。
──それはリーダーのPowerさんが人を集めたいなと?
Power そうです。
──どういった方法で見つけたんですか?
Power めっちゃSNSでコンタクトとって、実際に結構会ったんですよ。50人くらい。それで会って、「やんない?やりません?」みたいな、そういう活動をしてました。営業みたいな。
──今の時代ならではという感じですね。じゃあ、誰とも面識はなかったんですか?
Power そうですね。
──みなさんヒップホップのクルーをやりたいと思っていたんですか?
hanoi ShashiFrankhouse 俺は一人で音楽、なかでもヒップホップは一番簡単そうだったし、好きなのもあってやってました。でPowerとInstagramで知り合って、そこから一緒にやろうってなって。それで遊びに行って、今は一緒に住んでます。
wasabi 俺が集めてた時期もあったよね。その時はプロデューサー集団みたいな、そういう感じをやりたくて。
──入った順番は?
Power hanoi ShasiFrankhouseが最初ですけど、順番って言うほどそんなない。一応次がY ohtrixpointneverで、Genef、 wasabiかな。
──Y ohtrixpointneverさんはPowerさんと元々知り合いだったんですか?
Y ohtrixpointnever 自分は全然そうじゃなくて、インターネットで知り合って。友達のプロデューサーの家に面白い奴いるから遊びに来いよって言われて行って会ったのが最初。その後自分の家の近くに引っ越してきて、で何回か遊んでるうちに自然と曲作るかってなって。別に誘われてもないし入るって宣言もなしで自然とこうなってる。
──Genefさんはどのような経緯で加入したんですか?
Genef 自分は名古屋でディレクションしたりレーベルみたいなのを仲間内でやってたんですけど、TwitterでPowerと出会って色々話すようになってく中で、めっちゃ面白いなと思ったので来ました。
Power そう。だから今は自分とhanoi ShasiFrankhouseとY ohtrixpointneverとGenefの4人で一緒に住んでます。
──wasabiさんはどのような経緯で?
wasabi Powerと前からちょっと仲良くて。幼馴染とかではないですけど、SNSで出会って前から遊んでて。
Y ohtrixpointnever 今日入ってきた。俺も今知った。
wasabi 急だよね。昨日Powerから電話かかってきた。
Power 「出会いは突然に」ですよ。
──本当に昨日電話かかってきて今日入ったんですね(笑)
Power そうですね。
wasabi ビデオ見てやべぇと思って。入りたい、みたいなのは前から言ってたんですよ。でも色々考えることあるじゃないですか。目指すものというかやりたいことがぐちゃぐちゃだとよくないし。そういうこと考えて、あんまりガンガン言うのはやめようかなと思ってたんですけど。でも急に昨日電話かかってきて、「インタビューあるから来れる?」みたいに言ってきて。ちょうど空いてたので来ました。
──5人の仲は?
Power 結構悪いですね。
一同 (笑)
Power なんかhanoi ShasiFrankhouseは…。『ONE PIECE』の麦わら海賊団あるじゃないですか。あれで表すとサンジポジションがいいらしい。
hanoi ShashiFrankhouse サンジ希望です。
Power 自分はルフィなんですけど。で、Y ohtrixpointneverはなんだっけ。
Y ohtrixpointnever 俺は、実際本当はサンジなんだけど、建前はチョッパー。
wasabi サンジ2人いるやん。
Power Genefは?
Genef 俺は本物のサンジ。俺料理するじゃん。
Power wasabiは何が良い?
wasabi 俺はブルックだよ。
Power いやなんで。なんでサンジじゃないの。かぶせてくると思ったよ。普通に自分の希望言うじゃん。
それぞれが極めるべきことを極める
──皆さんの音楽的背景というか、どのような音楽から影響を受けていますか?
hanoi ShashiFrankhouse 僕は一番好きなのがゆるふわギャングで。NENEさんからすごい影響を受けてます。こういうラップが良いなっていうか、力抜けてる感じのアーティストが好きで。自分もそういう風にやりたいなと思ってますね。
Y ohtrixpointnever 自分はヒップホップじゃないんですけど、でもヒップホップのニュアンスがある人は好きで。Against All Logicっていうプロデューサーが結構好きですね。考え方とか。多分この世にある音全部を楽器みたいな感じで扱ってるんですよ。それが自由でいいなって思います。
Genef 自分はLil Wayneっていうラッパーが大好きです。
wasabi 俺はトラップでFutureとかそこら辺が好きで、ずっと聴いてました。
Power 自分はKendrick Lamarとか甲本ヒロトとかかな。
──今まで話を聞いてきた中でそれぞれ似ている部分も違う部分もあると思うのですが、グループとしての方向性は?
Power 自分はギャングがすごい好きで、ギャングになりたいんです。なりたいんですけど、無理じゃないですか。無理なんで、どうしようかなーって思ってるとこなんですよ。何したらいいですかね。模索してますね。
でもなんていうんですかね。明るい人とか暗い人とか、イケてる人とかイケてない人とか。そういう人が全員いるようなコミュニティがいいですね。色んな人がいて、自由で、かっこいいみたいな。そういうヒップホップしたいですね。

──楽曲制作の流れ、役割は?
Power 俺とhanoi ShasiFrankhouseが歌ってますね。でもみんな歌えばいいと思います。とりあえずちょっとやってますって感じです。で、Y ohtrixpointneverがプロデューサーです。あとビートメーカーが Y ohtrixpointnever、Genef、wasabiの3人です。
──全体的なプロデュースはY ohtrixpointneverさんが?
Y ohtrixpointnever たまたま今出てるやつは全部俺がいた時期だったんで俺がやってただけで。別に今後は色々ある。
Power 全員。自分がプロデュースするかもしれないし、みんなあると思います。
──なるほど、1人に決まっているというよりかはその時その時で柔軟にという感じなんですね。普段はどういった感じで制作は始まるんですか?
Power 色んな始め方があるんですけど、例えば最初トラックが出来たり、歌詞が出来たり、フローが出来たり、それで最初サビができたりとか。それに合わせてY ohtrixpointneverが色々作ってくれて、そこに基本的に寄せるみたいな感じですね。ネットに転がってるビーツとかを使ったりしてラップしたり、遊びの感じでやってます。
──一緒に住んでいるから日常的にずっとやってる感じですか?
Power ずっとやってますね。自分はあんまやんないんですけど、みんなずっとやってますね。
──仕事というよりは遊びの延長?
Power 作る時は遊びでやった方が良いと思ってます。その方がリアルだし、素だし。
──活動する中でのこだわり、伝えたいことなどはありますか?
Power それぞれあるんですけど、どう?
hanoi ShashiFrankhouse 歌詞で言いたい事とかはないんですけど、フローとか音とかで、抜けてる感じというか。僕は「ダルい」っていうのがかっこいいと思ってて。それを出す。学生の時のダルがってんのかっこいいみたいな感覚を出すのを意識してます。
Y ohtrixpointnever 僕は曲を出す事で自分好みの世界になっていくといいなみたいな。
── Y ohtrixpointneverさんの好きな世界に?
Y ohtrixpointnever そうですね。出さないよりは出した後の世界の方が良かったらいいなみたいな。なにかしら、誰かに影響与えたりして。
Genef 自分は暮らしとか空気感とかを表現出来たらなって思います。例えば朝起きてコーヒー飲んで散歩行くとか。そういう所をうまく表現出来たらなと。
Power かわいいなあ。
wasabi まったりしてるね。
──wasabiさんはどうですか?
wasabi 自分が思うような日常的な感情みたいなのが伝わればいいかなと。怒りとか悲しみみたいな。あと、AG ClubとかBROCKHAMPTONああいうのに負けたくない。そんな感じかな。
Power 対抗心燃やしてんだ。
wasabi AG Clubとか俺とタメじゃん。ああいうイケてる海外のやつらに負けたくない。
Power 自分は正直にリアルに怒りを表現したいっていうのはありますね。思う事とか言いたい事沢山あるんですけど、それを包み隠さず、歌詞っぽい歌詞を書かずに、こういう喋る感じでラップしたり歌いたいですね。なるべく喋り言葉でやりたいっていうのはあります。
──これはアーティストの方にインタビューする際に毎回聞いてるのですが、自分たちがやりたいことと、ヒットするため売れるためにやらなきゃいけないこととの間に差を感じたり、そこのバランスについて考えてることなどはあったりしますか?
Power まあそれぞれあると思うんですけど、自分はそんな何も気にしなくてもいいなっていうのはすごく思いますね。別に本当に好きだったらそんなこと考えないし、ぶち当たる壁って言われますけど、そんなん人生は過ぎ去っていくものなので、別になんの障害でもないなっていうのが自分的にはありますね。たぶん自分がやっていることがポピュラーというか、歌うとかそういう感じだからだとは思いますけど。地下でやってる人とかはそう思う人もいるんすかね。わかんないですけど。自分はそういうの考えなくていいと思います。
Genef 本当に楽しんでやれればいいんじゃないかなと思います。たまに話したりするんですけど、例えばTikTok受けする曲作ろうぜって言ってたら、それを楽しんでやれてることなんで、それでいいと思います。
wasabi 別にTikTok受けできる曲ならしちゃえばいいじゃん。それで受けるのがすごいですし。
Y ohtrixpointnever 自分たちがまだ売れてないんで、ただそれぞれの極めるべきポイントをまだ極めてないだけなんじゃないかなって感じですね。例えば、遊びでいくんだったらまだ遊びきれてない、みたいな。それが極まったタイミングで何も起きないわけがないと思います。

──やりたいことをそれぞれが極めていったら自然と認めてくれる人が出てくるということですか?
Power そうですね。サボらずに。
hanoi ShashiFrankhouse さっき言ってたけど、まだ売れてないですし、こういう曲を作ろうじゃなくて、今自分が感じたり思ったりしていることを、嘘つかないで自分らしく、ありのまま出せば。たぶん同じように感じてる人いっぱいいると思うんで、そういう人たちに響くようなことがやりたいですね。
好きなことを自分たちのやり方で
──今後の展望についてお願いします。
Power グループはやっぱ、人数増やして世界的になっていきたいです。いきます!
個人的には、言いたいこと言って、たくさんお金を稼ぎたいです。
wasabi 自分もラップしたいっすね。普通に思ってることとか。自分でビート作ってラップしていきたいっすね。
Genef 僕は、自分の行動とか表現に価値がついたらいいなって思います。
Y ohtrixpointnever めっちゃ普通なんですけど、めちゃくちゃ良い作品を作りたいです。
hanoi ShashiFrankhouse 僕は自分でまあ今年の目標を決めてるんですけど、最近知り合ったビートメイカーとタッグというか2人で、アンビエントサウンドって感じの曲を作って出すっていうのを今やってて。
Power へえ、そうなんだ。かっこええ。
hanoi ShashiFrankhouse 自分ともう1人の2人組で新しいジャンルじゃないですけど、なんか聞いたことないようなやつを出そうかなと思ってます。
──それぞれクルー以外の活動も自由に?
Power そうですね。なんかもう別に個人の活動は自由なので。何しても別にいい。
──アベンジャーズのような個人が色んな場所で活動していて、集まったら最強になるクルーというようなイメージなのでしょうか?
Power そうですね。なんかひとりひとりがOdd Futureみたいなスーパースターになっていけば、一番いいなと思います。
──人生の中で一番心に残っている一曲を選ぶとしたら何ですか?
Power うわなんだろ。「無人島に持っていくなら」みたいな感じですか?なんかある?
Genef Lil Wayneの『Lollipop』ですね。小学校5年生くらいの頃にYouTubeで聞いて、そっからHIPHOPすげえみたいになったんでそれが好きですね。
Y ohtrixpointnever 俺は20歳くらいのときにPrimal Screamってバンドの『Don’t fight it, Feel it』って曲があるんですけど、それを聴いた時に悪魔っているんじゃないかなって思った。なんか目に見えないものの存在とかまで感じさせる音楽を聴いて、すげえ可能性が広がったんですよね。まあでも怖い曲なんで、無人島とかにはあんまりですね(笑)
hanoi ShashiFrankhouse さっきの好きなアーティストのあれなんですけど、ゆるふわギャングの『palm tree』って曲。あれ聴いて、あのmvを見て、音楽やりたいなって思ったので。たぶんこの先もずっと聴くと思います。
wasabi 俺も一曲っていうと難しいけど、ヒップホップじゃないんですけどMura Masaっていう、ジャンルはエレクトロですかね。すげえ気持ちいいサウンドを作る人なんですけど、その人の一番最初のアルバム『Soundtrack To A Death』っていうアルバムが好きっすね。なんか色々な音があって、いつ聴いても気持ちいい。そのアルバムの中の『Miss You』っていう曲にします。もうただ気持ちいい。音の世界観がヤバいっすね。
Power 自分はKendrick Lamarの『The Blacker the Berry』これで!反骨心がいいっすね。
──皆さんにとって「イケてる」とは?
Genef 自分自身を追求してる人だと思います。それ一本でずっとやってるんだなとか、そういうのが見えてきた時だったり、あと雰囲気からもやっぱり感じますね。
Power 止まらない人がいいっすね。止まらない人がすごいイケてると思います。ずっと動き続けてる人がすごいイケてると思います。
──なんかあったとしても止まらずずっと進み続ける?
Power 進むというか、動いてればいいんですよ。別に後ろ行っても横行ってもいい。なんて言えばいいんですかね。感覚的にはそういう感じっすね。なんか動いてりゃいいんですよ。何するにしても、何もないよりは悪いことがあったほうがいい、自分的には。そういう感じっす。それがイケてるなって思います。
wasabi 俺はあれっすね。曲とか聴いてる時にイケてるなって思うのは、音と言葉がすげえマッチしてる時っていうか、もう一緒にいるみたいな、共存みたいな感じの時がまじイケてるなって思います。作ってるからこそ思うことかもしれないですね、それはやっぱり。ビートとこの歌詞合ってないなっていう曲もすごくいっぱいあるし、そんな中で音と言葉がマッチしてるのはまじでかっこいいと思います。
Y ohtrixpointnever 100%こいつ自分のこと信じてるんだなみたいなことがわかったらめっちゃいいなって思います。自分がイケてると100%信じきってるなこいつみたいなやつはめっちゃイケてるなって感じますね。
hanoi ShashiFrankhouse 好きなものあるじゃないですか?好きなものが作品として見えるのがかっこいいなって思います。たとえば、アニメ好きだったら、あ、この人アニメ好きなんだなってのが聴いててわかるというか。僕最近VTuberにすごいハマってるんですけど、そういうのも見せていけたらなって思います。なんかラップとVTuberってそんな合わないって思われると思うんですけど、でもなんかそういうのも隠さずに見える感じ。自分に嘘ついてないっていうことですね。
──最後に皆さんが考える「カルチャー」とは?
Power いや、自分何もわからんす(笑) カルチャーとかマジでわからんす。もうなんか何もわからんすよ。いるんかなとも思います。そんなもんがあるから先代たちを越えられないのではないかというのがすごくあります。
──カルチャーとして括られているからということでしょうか?
Power 今の若者とか、自分たちと同じ世代の人たちとかは、カルチャーとか先人たちをリスペクトしすぎて、こうしなきゃいけないんじゃないかとか、レールが敷かれているように思えて。芸術にそんなものないのに、レールがあってそこを通らなくちゃいけないみたいな、そういうのはめんどくさいなって思いますね自分は。嫌いですね。
──カルチャーっていうよりは好きなことやってればいい?
Power そうですね。カルチャーとかそんなもんはただのまやかしだと自分は思ってますね。
Genef 自分は、好きなものが近い人たちが集まって自然にできるのがカルチャーだと思っていて。たとえば今日取材していただいたC.U.Tさんもまあカルチャーになるだろうし、そういうものだと思ってますね。
Y ohtrixpointnever Powerとほぼ一緒なんですけど、エゴい思想みたいなやつが足跡になったのがカルチャーで、その足跡を別に楽しんでもいいし、通らなくてもいいしみたいな感じだと思います。
hanoi ShashiFrankhouse あんま考えたことないんであれなんですけど、今のWATER DAWGSとかいきなり人が入ったりするし、みんなやってること全然違うし、だけどそれでも成り立ってる。その理由って人が集まって楽しんでる空間が人を寄せるみたいな部分だと思うんです。たとえば盛り上がってるところ見たらちょっと見たくなるじゃないですか。その中心がカルチャーになるんじゃないかな。あれ当たり前のこと言ってる?
wasabi そうですね。さっきPowerが言ったことじゃないけど、敷かれたレールみたいなのがあるじゃん。例えばLil Wayneがやったあれとかがかっこいいみたいな。そういうのが、俺らがやってできたものを評価する基準になってる。俺らがやってできたものをかっこいいって思うのは、前にやってた人たちがかっこよくて、それにちょっと似てるからだったり、逆に全然違うからだったり。あるおかげで、って感じ。具体的にこうみたいなのはないけど、そういうのがカルチャーだと俺は思う。
──ありがとうございました。

取材 Nozomi Tanaka
構成 Tsukasa Yorozuya, Ryo Mizuguchi
撮影 Ryo Mizuguchi