【PERSONAL FILE】Artist 記憶の宮殿 純粋な感性の表現者 

美しい歌声と音楽に留まらない類いまれなる表現力の他は謎に包まれた存在であるアーティスト記憶の宮殿。音楽以外にも写真や映像といった様々な表現方法を通して作品を生み出している。ベールに隠されたシルエットから届けられるメッセージの秘密を探った。

※コロナウイルスの影響を考慮しオンライン取材を実施

記憶の宮殿 interview teaser

共感は喜び


 ──SNSを見ると様々な作品がありますが、記憶の宮殿としての活動内容を教えてください。

記憶の宮殿 記憶の宮殿の活動では、今は音楽や歌が目立っていると思うんですけど、基本的にはそれ以外にも写真や映像など様々な表現方法を通して表現をしています。これまでは歌を褒めて頂くことはあったのですが、活動を始めるにあたって、もっと表現や感性のような物作りの根幹になるような部分を見て頂きたいという思いがありました。そのための一つの表現方法としての音楽であって、映像、写真、アートワークでも表現できるなと。最初の一年は試行錯誤しながら思いつくままに色んな表現ジャンルで作っていました。

 ──イラストや映像もご自身の作品なんですね。

記憶の宮殿 はい。常に自分の中にあるものを表現しやすい方法で表現しているという感覚で、「音楽よりは映像で表現した方が自分の中にあるものが具体的に表現しやすいな」という肌感で表現方法を変えています。

 ──作品中でシルエットのみを映すのはなぜですか。

記憶の宮殿 色眼鏡をつけないで、記憶の宮殿として作るもの、そのものを見てほしいと思うからです。

容姿を見せずに情報を削ぎ落とすことで、聞き手の立場からすると音楽や言葉しか情報が入ってこない状態を作り出すことができると思います。音楽そのものや表現のみに情報を絞ることで、純粋にこれらだけを見て頂きたかったという想いを込めています。また、それに共鳴してくれる方々と一緒に表現を共に拵えたかったという想いもあります。

 ──ご自身の本質を伝えることを重視しているんですね。

記憶の宮殿 私の中で、人に共感できる事、してもらえる事は、一番と言っていい程に大きな喜びなんです感性が自分の全てだと思っていて、それを好きだと言ってもらえるのは全てを受け入れてもらえている感じがして、生き心地がしますね。


気づけば歌ってる


 ──音楽に興味を持ったのはいつですか。

記憶の宮殿 「いつから」という具体的な線引きはないです。無意識に始めていたというか、、この手の質問には、具体的にお答えできたことが無いんです。自然と気づけば歌ってるっていう感じで、それは例えば子供が目を離した隙に絵を描いてたり粘土で何か作ってたり、というような感じでしょうか。彼らに「なぜそれを作ってるの?」と訊いても明確な答えは返ってこないということと同じです。
記憶の宮殿としての活動自体は去年の4月からで、今年の4月で1歳になりました。

 ──まさにご自身の思いや感性が作品にこもっているんですね

記憶の宮殿 全てに意味だけを込めているという訳では無いのですが、洪水のように日々色んな歌が出てくるんです。ただ、それらを全部曲にして世の中に送り出すというわけではなくて、それらを俯瞰的に見て今世の中に発信すべきか否か検討しています。

 ──出す、出さないの基準はありますか?

記憶の宮殿 作り手側の中で満ち足りているかと世界に対してどういう意味を持つのか、の2つです。

満ち足りてるというのは作品としてのクオリティもそうなんですけど、どこまで納得が出来たか、という所に尽きます。感覚でしかないんですけど。

感情を深堀りする事が好きで、なんでそう思ったのか、その原因はどこから来たのかという事を書き出しています。ただ、周りからの顔色を伺うのではなくて、それが自分自身にとって重要な物事で、そこからうまれた感情や考えを形にしたいと強く思えば形にしています。

世界に対してどういう意味を持つのかというのは世界と自分との間のタイミングです。先日のinstaliveにて歌を唄ったのですが、そこで最初に唄った曲が『小さな世界で』という曲で、その曲は元々オーストラリアの山火事の時に書いたものだったんです。世界的な大きい災害とか何かが起こった時に火を消せたり、がれきを取り除ける人がいたりする中で、表現者が何をやるかというとピンとこなくて。そう思ってた時にオーストラリアのアーティストたちが未発表曲をBandcampにあげて、その収益を寄付する活動を知ったことを契機にこの曲を作ったんですけど、最終的に今じゃないと思って公開しませんでした。その為暫くこの曲は眠っていたのですが、COVID-19によって再び世界がピンチになった今、その曲を出すべきなんじゃないかとふと思って、後半にポエトリーリーディングを加えて出しました。同じ歌でも、タイミングによって意味が変わってくると思います。

記憶の宮殿instagramより 『小さな世界』

人の心に近しい存在でありたい


 ──今後の展望はありますか。

記憶の宮殿 今年で1歳になったということもあって、ちゃんとした作品を世に送り出したいと思っています。この一年間は何か一つの作品を仕上げようというよりも、試行錯誤しながら色んなものを作ってきました。一つのやり方に固執してしまうと同じものしかできなくなってしまう気がしていて、何かにとらわれず全然違う作り方を試みる中で生まれる新しい幅や誰もやってこなかったことを探し続けてきました。その繰り返しの中で、2月に初めて『バード』という曲を配信しました。こういう感じの物を作っていくんだよねという何かが初めて分かった作品です。本当はこれを皮切りにどんどん作品を出していく予定だったんですけど、昨今の事情で出せずにいてもどかしい気持ちはあります。

記憶の宮殿 YouTubeより 『バード』

 ──やはり多くの人に伝わって欲しい?

記憶の宮殿 もちろん伝わってもらえたら嬉しいけど、それを狙うようなことはしたくなくて、というのもウケるかなと思って作ったものには愛は宿らないですから。この曲について語ってくださいって言われたときにそこに想いがなければ嘘をつきかねないですし、そのように意識的に嘘をつく事は後々自分自身を苦しめてしまう事になりますから。そんな苦しみを自ら生み出すような事は避けたいです。
やっぱり、感性の部分だったり表現だったりを純粋にみてもらいたいっていう所を第一に活動を始めたから、知名度に先走る形で露出するのは避けています。ただ、自分自身の物としてできた嘘のない作品が結果的に反響があるというのはこの上ない喜びです。多くの方に共感してもらえたと言う事ですから。

 ──音楽シーンに対して思うことは?

記憶の宮殿 常に人の心に一番近しい存在であって欲しいと思います。本当に苦しい時やどん底の時って、人に助けを求めるというよりも音楽にすがりつくことが多くて。苦しみに耐えられない時、誰かに電話すると、ちゃんと話さなきゃとかいろいろ考えてしまってそこで感情に蓋をしてしまうんですけど、音楽を聴くと感情に素直になれて、解放されたような感覚になれるんです。直接歌われるわけではなくて、間接的だからこそ心に入ってきやすいんだと思います。自分自身もそういう存在でありたいです。

あとは、色んなものに興味があるので興味のある分野とのコラボレーションをしていきたいです。一種の憧れでもあるんですけど、服飾とか料理、印刷の紙とかにも興味があってそういう自分がやってこなかった道の方と積極的にコラボレーションをしていきたい。実は初期に3日に1個くらいのペースで作品を出していて、音楽をあげた日には歌や音楽が好きな人、映像をあげた日には、映像クリエイターの方からフォローをして頂いたりとか。受け手によって記憶の宮殿の受け取り方が違うのが面白いし、特徴の一つだと思います。


カルチャーとは、愛の渦


 ──最後にこれは全員に伺っている質問なのですが、記憶の宮殿にとってカルチャーとはなんですか?

記憶の宮殿 愛の渦のようなものです。カルチャー、つまり文化は個人と世界との関わり合いの中で生まれてくるものだと思っています。
例えば、個人が何か新しいものを創造した所で、まだその段階ではそれは文化とは呼べないのですが、全ての文化は必ず誰か一人からの想像や発信から端を発していることは言うまでもありません。
世界と向かい合って、その中で全ての個人が自身を表現することがやがて大きな「うねり」となり、やがて一つの文化を形成していくのだろう、という想いを込めて愛の渦と表現しました。

 ──ありがとうございました。

<FIN.>

記憶の宮殿 オンラインショップ https://kiokunokyuden.shop/

記憶の宮殿Spotify
記憶の宮殿Twitter

取材・構成 Tsukasa Yorozuya
アシスタント Taiki Tsujimoto