COVID-19による影響で人々の交流は制限され、オンラインでの交流が活発になった。外に出かけることができない、友人と直接話すことができないというこの状況下で人間を人間たらしめているものはアートなどのカルチャー分野であることは間違い無い。カルチャー、文化の重要性を改めて感じる日々である。
そして、ライブハウスの閉店や様々なイベントの中止などによりアートやカルチャーに非常に深刻な影響が出ている。その中でもストリートダンス業界は非常に厳しい状況である。
ダンスは楽曲制作などと違い、ダンス自体が商品になりにくい特殊な性質を持つ。ダンサーの仕事は振付の他にダンスレッスン、ワークショップ、イベントへの出演があり、これらは「生の経験」を商品としているものであるため、現在自粛が強いられている環境では非常に経済的に厳しいことは容易に想像できる。
金銭面のみならず、ダンスカルチャーは音楽と空間を共有し、ダンスをシェアすることで育ってきたため、文化として今後どうなるのか岐路に立たされている。
そんな中で様々なイベントオーガナイザーやダンサー、ダンススクールなどがオンラインでダンスの場を作っている。
日本が世界に誇るダンスエンターテイメントグループのGANMIやVIVE JAPAN 2019(世界最大級のダンスコンテストの日本予選)優勝のYDK ApartmentもSNS上でセッションする映像作品を発表するなど、工夫を凝らしている。
また、ダンスレッスンにおいても大手ダンススクールであるEn Dance StudioやNOA、LDHが運営するEXPGなどもオンラインレッスンをスタートさせている。その中でも若者を中心に人気なのが、ダンサー本人が手がける、プライベートオンラインレッスンである。
大手ダンススクールのレッスンは月謝制で無制限に受講できる場合が多いが、講師が限られている。それに対してプライベートレッスンは普段受けることができないような一流ダンサーのレッスンを一回ずつの支払いで簡単に受けることができるため人気を博している。
また、渋谷のレンタルスタジオのユニアスではオンラインレッスンを行いたいインストラクター向けのサービスもリリースされた。
ダンスバトルもオンライン化が進んでいる。オーガナイザーによってその色は様々だ。
例えばブレイクダンスではBreak Free Worldwideがオンライン上で世界大会を開催している。
また、国内でも様々なオンラインバトルが展開されている。
今回はその中でも国内トップクラスのジャッジやビートメイカーをキャストに迎えるNITT PROJECTのオーガナイザー roto(23) に話を聞くことができた。
※コロナウイルスの影響を考慮しメールインタビューを実施。
──このイベントを開催することになった経緯を教えてください。
roto ”ダンサーが活躍できる場所がなくなる?”と感じたのが今回このイベントをやろう、と思った一番の理由でした。
ダンスバトルやダンスショーは、新型コロナウイルスの流行以前、当たり前のように提供されていた、ダンサー達の活躍の場であり楽しみでした。今年に入り、世界中でコロナの影響が話題に上がるようになるにつれ、ダンスイベントは中止を余儀なくされました。その影響は想像以上に大きく、ダンサーは活動の機会を失い、活動場所となっていたクラブやダンススタジオは経営が難しいといった状況になっています。自粛が始まった当初は、状況に抗うかのようにダンスの映像がSNSで多数発信されていましたが、自粛疲れからかその頻度も低くなったように感じており、ダンスへのモチベーションがなくなっているという話を聞くようにもなりました。
こうした中、私自身ダンスが好きであり、この期間に必要性が顕在するようになった映像やデジタルの領域に多少知見があることから、何かダンスシーンに貢献できることはないかと考えました。
そこで、今回このイベントを開催する運びとなりました。
ダンスをしている人なら誰しも知っているように、ダンスの魅力とは本来イベントに定義されるものではなく、ダンス自体にあるものだと思います。
しかし、ダンスのイベントは、ダンスを周りの人達とシェアし、仲間が増えるような空間であり、また自身の成熟度を確かめる指標といった機能をも担っていたと思っていて、このようなダンス自体以外の多くのことにも、面白さや、モチベーションを感じている人がいるというのも、また事実ではないでしょうか。
現在の状況下で、どうしたらそのような体験ができるのかを考え、オンラインに馴染みのない人にも負荷が少ないであろう今回の形を生み出しました。シンプルでミニマム、かつ密度の濃いものを目指しています。エントリーは有償としていますが、これは一時的に行われるイベントではなく、今後この状況が続いた時にも継続可能なシステムにするためです。必要経費を差し引いた売上金はダンススタジオやクラブの支援に活用していきます。
──今後ダンス業界はどうなっていくと思われますか?
roto もちろん、ダンスは生じゃなきゃ、という気持ちも分かりますし、私自身も生のダンスや現場が好きな人間の一人ですので、オンラインでのダンスというところに思うことが多々ありました。
しかしダンスは、他の多くのスポーツとは異なり、ボールもバットも必要ありません。この状況下においても楽しめるし、また救いにもなると思います。
半強制的にではありますが、リアルのみにとどまらず、オンラインの領域にもダンスの活動範囲を広げることができる機会でもあると思うと、このようなタイミングをある種のキッカケと捉えてもいいのかもしれません。オンラインでのダンスは、物理的な距離を超えて世界中のダンサーと関わることも、今まで以上に第三者からの見え方と向き合うこともできます。
ストリートで生まれた文化が社会が変わるにつれて適応してきたように、今後ダンス業界は更にオンラインという次元にも範囲を広げるのではないかと思います。オンラインのダンスイベントやSNSでのダンスの在り方と、オフラインのダンスの在り方には、それぞれメリットデメリットがありながらも、どちらも一定の機能を果たすのではないかと思います。更に言えば両者のバランスや、関わり方というのは個人の裁量に委ねられるのだと思います。
多くの人が、このプロジェクトに魅力を感じ、モチベーションや楽しみになることを願っています。
──ありがとうございました。
Nittproject HP
https://www.nitt.online
コロナ下においても 「ダンス=シェアカルチャー」 という根本が忘れられることはなく様々な場がダンサーに提供されている。しかしその裏には、多くのオーガナイザーやダンサーの工夫と努力があることを忘れてはならない。
そしてこの事態が収束した時、「オンラインによる蓄積」と「生の経験」の融合によってダンス業界はさらに発展していくだろう。
Written by Taiki Tsujimoto